上層資産階層の教育における再生産戦略VI : 60年代生まれのライフスタイル調査から(IV-5部会 社会構造と教育(2),研究発表IV,一般研究報告)
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概要
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本報告は、2002年から継続して調査を実施している、我が国の上層資産階層の再生産のメカニズムを、主として教育戦略に焦点化して明らかにする試みの一環として行われている。今回の調査では、本人を含む複数世代が同じカトリック学校出身者で、1960年代以降生まれの女性30名を対象に、インタビュー及び質問紙の併用で調査を行った。そのうち、今回報告する対象者は、調査対象者(60年代生まれの女性)の親世代も同じ学校の出身者で、調査対象者の子女も同じ学校に進学している、すなわち、3世代以上の学校歴の再生産がなされている条件を満たし、更に、調査対象者が有職主婦であるというケースである。2人の調査対象者は、専業主婦で一定期間子育てをした後、就業復帰しているが、復職後に初職時よりキャリアが上昇したケースである(調査対象者Aは専業主婦時代に学位を取得し、研究職員として復職、Bは大学卒業後一般職として、企業に就職したが、子育て期に専門職資格を取得し、専門職として社会復帰した)。この二つの事例は、調査対象者自身が受けた家庭教育、生育環境がその後のライフスタイルに強く影響し、社会復帰に際しても、調査対象者の親世代の手厚い支援によって支えられている。また、この調査対象者達は、それ以前の世代のように、必ずしも、出身校を礼賛するような「語り」をしなかったが、60年代以降の調査対象者に共通する特徴である。これは、子育て期を完全に終了した調査対象者の親世代と異なり、現実に、自身が子育て期の只中にあり、出身校の在りようを直接的に体感している世代であるという条件も多分に影響していると思われる。 しかしながら、出身校に多少の批判的眼差しを向けながらも、自身の子女も進学させている事実を考えると、学校歴の再生産を繰り返す家庭のうち、60年代以降生まれの持つ中等教育期の学校選択に関する価値の一端が垣間見えた。この2人の調査対象者は、所謂M字型就労のパターンにおいてキャリア上昇を果たしているが、自分たちが特殊事例なわけではなく、自身の子ども世代の母親達も順次社会復帰準備を始めていると語った。その中には、医師や弁護士など、既に専門資格を持っていながら、専業主婦だった女性達も含まれていた。これまでの調査から得たデータのみから言及すると、本事例を含む調査対象者達は、離職することを怖れていない。ライフコースにおけるプライオリティが明確で、自身のセルフ・エスティームも極めて高い。初職から一旦離れ、一定期間離職期を持ってしまう事により、社会復帰が困難であったり、キャリアが後退したり、母親の就業中の「子どもの居場所確保」すら困難な一般的状況を考えると、細かな環境上の格差の累積が、ライフコース全体を通した大きな格差を生み、階層的問題として位置づけられる事になる。
- 2007-09-22
著者
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