『セント=ヘレナ覚書』の予備的考察
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概要
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大西洋の文字どおり絶海の孤島セント=ヘレナは、ナポレオン最後の流刑の地、彼がそこで没した島として知られるが、その流刑に伴った少数随員の一人ラス・カーズの手になる『セント=ヘレナ覚書』は、ナポレオン没後2年目の1823年に8巻本としてヨーロッパで初刊行され、ナポレオン最後の日々の言動記録、第一次資料として、今日にまで版を重ねている。しかしながらわが国では、そのあまりの大著のゆえか、あるいはその読解にナポレオン時代史の細かな知見をおのずからに要求されるゆえか、またあるいはその信頼性への予断にみちた否定的姿勢のゆえからか、内容の全体に則した紹介、評価は皆無に近いままに今日に至っているとうけとめられる。セント=ヘレナ島でナポレオンに近しく接した人物たちの尊重すべき記録は他にも若干は存在し、それら第一次資料相互の検討が本来的に必要とされるのは言を俟たない。しかしそのためにも、ナポレオン身辺のもっとも近い記録者と目されるラス・カーズの『覚書』を、検討不可欠のものとして、筆者は能うべく客観的に受容し、忌憚のない評価を試み、同学の士の参考に供したいと志した。ただしここに本稿で論述するのは、『セント=ヘレナ覚書』の内容実体に迫る本来的目的への、基礎的部分にとどめる。導入につづけて、著者ラス・カーズについて、そして『セント=ヘレナ覚書』の諸版についてを、まず主な布石として配しておきたいと思う。
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