格子上の集団における協力の進化
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概要
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格子構造をもつ生息地における協力の進化を調べた。各個体は近隣の他個体とだけ相互作用をする。初期集団ではしっぺ返し(Tit-for-Tat(TFT)、協力的な戦略)と全面裏切り(All-Defect(AD)、非協力的な戦略)が格子上にランダムに並んでいる。それぞれの戦略は最も近くの格子点にいる戦略と反復囚人のジレンマゲームをする。そして総得点によって死亡率が決まる。ある個体が死亡すると、格子点は空になるが、その後はすぐに隣からランダムに選んだ個体のコピーが埋める。モデルは1次元と2次元格子で行ない、平均場近似とペア近似という2種類の数理解析とコンピュータシミュレーションによって解析し、完全混合モデルと比較した。結果は次のようになった。(1)1次元モデルでは、戦略はクラスターを形成する。反復確率wが増加すると、しっぺ返しのクラスターが広がりやすくなる。しっぺ返しが増える条件は、平均場近似による予測では大きくずれるが、ペア近似によって正確に予測できる。(2)wが十分に大きければ、しっぺ返しは全面裏切りが圧倒的多数を占める集団に侵入し広がることができる。これは完全混合モデルとは違っている。完全混合モデルはどんなwの値でも全面裏切りが常に進化的に安定であり、たとえwが十分大きくても協力的な戦略であるしっぺ返しは侵入できない。つまり、格子構造があれば非協力的な社会が協力の社会に変わりやすくなるのだ。またこの結果はランダムウォークによる侵入確率の解析によっても確かめることができる。(3)2次元モデルは1次元モデルと完全混合モデルの中間の振る舞いをする。(4)空間構造によって2つの面で協力の進化の仕方がかわる。1つ目は空間構造があるときは協力同士が固まりやすくなるので、協力の進化が促進される。が、2つ目は、隣の個体を殺してその後の空き地に自分のコピーを入り込ませようとするような嫌がらせが有利になるために協力が進化しにくくなることである。
- 物性研究刊行会の論文
- 1996-12-20
著者
-
松田 裕之
九州大学理学部
-
中丸 麻由子
東京工業大学大学院
-
巌佐 庸
九州大学理学部生物学科
-
巌佐 庸
九州大学理学研究院
-
巌佐 庸
九州大・院理・生物
-
中丸 麻由子
科学技術振興事業団 CREST
-
中丸 麻由子
九州大学理学部
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