草地生態系のエネルギー効率 : 第1報数種牧草群落の乾物生産と光利用効率
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
牧草地の生産から利用までの作業を,自然界の一つの系とみなし,光〜草〜家畜を貫くエネルギー転化の過程として統一的に追究するという考えのもとに,先ず春季の牧草群落において,光エネルギー利用効率についての観察を行なった。群落形成にともなう日射エネルギーの反射・透過・吸収量の推移と,乾物日生産速度(ΔW),乾物燃焼熱量(ΔH)を測定し,1日1m^2あたりの到達日射量(S),吸収日射量(S_α)に対する乾物固定エネルギー量の比(利用効率E_u=ΔH・ΔW/S×100,変換効率E_φ=ΔH・ΔW/S_α×100)としてそれぞれの効率を求めた。1. 4月下旬の播種から約11週間の乾物生産を追跡した結果,全乾物重(最終時)は,イネ科で760〜770g/m^2,マメ科で410〜590g/m^2で,既往の成績に比べ,かなり高い値であった。ΔWの最大値とそのときの最適葉面積指数(L_<opt>)は,それぞれ,ペレニアルライグラス32.8g/m^2,12.6,オーチャードグラス26.0g/m^2,11.1で,何れもイネ科草はマメ科草の値より著しく高く,ΔWの高い値は,L_<opt>の高いことに帰せられると考えられた(Table 2)。2.乾物重あたり燃焼熱量は,葉身>根>茎・葉鞘の傾向があり,またマメ科草の方がイネ科草より高かった。全植物体平均では,イネ科草3800〜4000cal/g,マメ科草4200〜4300cal/gであった(Table 3)。3.到達日射量は,調査期間の前半は3800〜3900kcal/m^2・day,後半は2900〜3400kcal/m^2・dayであった。この日射量のうち,約25%が群落により反射され,5〜30%が地表まで透過し,残り60〜70%が吸収された。反射率の変動は少ないので,群落による日射エネルギー吸収量は,主として葉面積の大小にもとづく透過率の大小に左右される(Table 4,Fig. 1)。4.調査期間の後半は,Sの大部分を群落が吸収し,反射率・透過率の変動は小さいので,E_uとE_φとは高い相関関係にあり(r=0.988^<**>),両者は常に同じ傾向を示した(Table 4)。5.調査期間中,生育にともない,E_uは,ひとつのピークをもつ山型の曲線を描いて推移した。対象とした11週間の平均E_uは,ペレニアルライグラスの1.23%から,ラジノクローバの0.72%の間にあった。透過率の小さくなった後期4週間に限れば,E_uはアルファルファの2.14%からクローバの1.62%までの間,ほぼ2%前後の値を示す(Table 4,Fig. 2)。6.E_uの最大値_<max>E_uは,1番草のペレニアルライグラス3.03%,オーチャードグラス3.11%,アルファルファ2.10%,ラジノクローバ2.04%,2番草のイタリアンライグラス2.9%で,マメ科草よりイネ科草の方が有意に高かった。_<max>E_uを構成する要素のうち,主として_<max>E_uを規定するものは_<max>ΔWであるが,これはL_<opt>により,さらにL_<opt>は群落の吸光係数(K)によりほぼ決定されると考えられる(Fig. 2〜6)。7.栄養塩類,土壌水分,温度などの条件が生育に好適な場合には,ある生育期間の平均のE_uの高さが,純生産量,ひいては収量を決定することが明らかであるが,平均E_uは,_<max>E_uの高いことと共に,このピークに到達してのちのE_uの低下のしかたによっても左右される。低下の急なものを"効率降下型",緩やかなものを"効率持続型"とすれば,ラジノクローバは降下型に属し,この試験に取上げたイネ科草種もややこれに近く,アルファルファは持続型とみなすことができる。"効率持続型"は,放牧・刈取などの収穫適期の幅が広いこと,刈取間隔を長くとりうることを意味するもので,牧草の生産管理上重要な特性であると考えられる。
- 日本草地学会の論文
- 1969-08-20
著者
-
大久保 忠旦
農林省畜産試験場
-
星野 正生
琉球大学農学部熱帯農学研究施設
-
大久保 忠旦
東京大学農学部付属牧場
-
星野 正生
農林省畜産試験場
-
松本 フミエ
農林省畜試飼作
-
大泉 久一
農林省畜産試験場飼料作物部
-
松本 フミエ
農林省畜産試験場飼料作物部
関連論文
- 放牧仔牛のエネルギー摂取量及び代謝エネルギー利用効率おける草種間比較
- 連続消化試験法による生育中のアルファルファ,ペレニアルライグラス,トールフェスクの消化率の推定
- 飼料資源としての有用木本植物の検索とその飼料化に関する基礎的研究 : 第 3 報マングローブ植物の嗜好性に関する研究(附属熱帯農学研究施設)
- ネピアグラスのメタン生産原料としての利用性
- トールフェスク(Festuca arundinacea SCHREB.)放牧草地における牧草の供給から放牧牛の増体蓄積までのエネルギー効率の季節変化
- トールフェスク(Festuca arundinacea SCHREB.)放牧草地における太陽エネルギー利用効率の季節変化,特に可食部の生産と仔牛の成長について
- トールフェスク(Festuca arundinacea SCHREB.)放牧草地における牧草の供給から放牧牛による増体蓄積までのエネルギー効率
- ネピアグラスの乾物生産に関する研究 : 第5報 収穫部各部の乾物収量の地域差
- ネピアグラスの乾物生産に関する研究 : 第2報 東京以南の6地域における乾物生産力
- オーチャードグラスの再生長に及ぼす刈取り高さと生育季節の影響
- 草地におけるカリウムの動態に関する研究
- クロロフィル量を指標とした牧草の物質生産の解析 : III.栽植密度の異なるアルファルファ群落の最大乾物生産速度と弱光下個葉光合成速度のクロロフィル含量に対する依存性
- クロロフィル量を指標とした牧草の物質生産の解析 : II.最大乾物生産速度,生長構成要素,個葉光合成能力の季節変動とクロロフィル含量との相関関係
- ラジノクローバにおける^CO_2の同化と同化産物の転流に関する実験 : 第7報 ^C-同化産物の転流速度におよぼす温度, とくに低温の影響
- ラジノクローバにおける^CO_2の同化と同化産物の転流に関する実験 : 第6報 転流におよぼす生長点, わき芽および葉切除の影響
- ラジノクローバにおける^CO_2の同化と同化産物の転流に関する実験 : 第5報 葉のageと同化および同化産物の供給能力との関係
- 54 ラジノクローバにおける^CO_2の同化と同化産物の転流に関する実験 : VII 葉のageと同化および同化産物の供給能力
- 21.草地生態系のエネルギー効率 : 第2報アルファルファとラジノクローバにおける光利用効率の季節変化(草類の生理・生態,第19回発表会講演要旨)
- 草地生態系のエネルギー効率 : 第1報数種牧草群落の乾物生産と光利用効率
- 4.草地生態系のエネルギー効率 : 第1報二,三の牧草群落の光利用効率(草類の生理・生態,第17回発表会講演要旨)
- 26 ラジノクローバにおける^CO_2の同化と同化産物の転流に関する実験 : VI 同化産物の転流速度に及ぼす温度の影響
- ラジノクローバにおける^CO_2の同化と同化産物の転流に関する実験 : V 葉のageと同化, 転流との関係 (第145回講演会)
- 飼料作物の再生長における貯蔵物質の役割に関する研究 : 2. 貯蔵物質と残葉との関係 (第144回講演会)
- ラジノクローバにおける^CO_2の同化と同化産物の転流に関する実験 : III 再生時における^Cのとりこみと分配
- ラジノクローバにおける ^CO_2 の同化と同化産物の転流に関する実験 : II. 植物体各部における ^C-同化産物の形および分布
- 硫化カドミウム光導電体による作物群落内相対照度の測定法
- 10.オーチヤードグラスの再生長に対する温度,光およびチツソ施肥の影響(草類の生理・生態,日本草地学会第9回大会講演要旨)
- 9.牧草の刈取基準に関する研究I : ラジノクローバの再生長における葉面積の増加と炭水化物貯蔵量の推移(草類の生理・生態,日本草地学会第9回大会講演要旨)
- 8.ラジノクローバーの生育に対する温度の影響(草類の生理・生態,日本草地学会第9回大会講演要旨)
- 群落内相対照度を測定する方法の改良 (第139回講演会)
- クロロフイル量による牧草の物質生産の解析 : II オーチヤードグラス・ラジノクローバ混合群落の再生長にともなう葉面積指数とクロロフイル量の推移 (第138回講演会)
- ラジノクローバにおける^CO_2の同化と同化産物の転流に関する実験
- クロロフィル量による牧草の物質生産の解析 : I. ラジノクローバの再生長における葉面積指数とクロロフィル量の推移
- 7.ラジノクローバーの生育の季節的変化(続報)(草類の生理などに関する問題,日本草地学会第8回発表会講演要旨)
- 群落内相対照度を測定する一つの方法 (第137回 講演会)
- ラジノ・クローバーにおける^CO_2の同化と転流に関する実験 (第137回 講演会)
- 17 牧草の再生長に伴うクロロフィル量と乾物生産の推移
- ラジノクローバにおける^CO_2の同化と同化産物の転流に関する実験 : IV. 貯蔵^C-同化産物の再生長への利用
- ラジノクローバにおける ^CO_2の同化産物の転流に関する実験 : VI 貯蔵 ^C-同化産物の再生長への利用 (第143回講演会)
- 飼料資源としての有用木本植物の検索とその飼料化に関する基礎的研究 : 第1報 数種木本植物の収穫法
- 主要牧草の採種適地選定に関する研究 I : ラジノクローバについて
- 11.ラジノクローバの葉柄の刈り残しが再生長に及ぼす影響について(日本草地研究会第5回研究発表会講演要旨)
- 飼料資源としての有用木本植物の検索とその飼料化に関する基礎的研究 : 第 2 報 アカメガシワ (Mallotus japonicus Muell-Arg) の生産に及ぼす窒素肥料の施用効果(附属熱帯農学研究施設)
- 南西諸島における熱帯イネ科牧草の導入と栽培 (II) : 収量におよぼす施肥窒素の影響(附属熱帯農学研究施設)
- 南西諸島における熱帯イネ科牧草の導入と栽培 (I) : 有望 5 草種の比較について(農学部付属熱帯農学研究施設)
- 20.牧草の刈取適期に関する考察(草類の生理・生態,第19回発表会講演要旨)
- サツマイモの飼料向栽培法に関する研究(サツマイモの飼料向利用に関する特集)
- 飼料摂取量と24時間心拍数との関係について
- 乳牛の心拍数,とくに固有心拍数の成長にともなう変化
- 放牧牛の心拍数,顎運動回数および顎運動休止回数の携帯用長期間連続記録装置の開発
- 放牧および舎飼時の馬の食草,採食行動の自動解析
- 放牧牛の食草速度,反芻速度および反芻時食塊数の自動記録
- 小型データロガによる放牧行動の自動解析
- 飼料作物の再生長における貯蔵物質の役割に関する研究 : 1. 刈取後の分けつ出現に対する植物ホルモンと貯蔵物質との関係 (第143回講演会)
- 9.ラジノクローバーの生育の季節的変化(日本草地研究会第5回研究発表会講演要旨)
- ラジノクローバの生育の季節的変化 (第131回 講演会)
- 8.マメ科種子の貯蔵に関する2,3の実験(日本草地研究会第4回研究発表会講演要旨)
- まめ科種子の貯蔵に関する2, 3の実験
- 17.草類の種子発芽および初期生育におよぼす環境要因の影響に関する研究 : III.数種牧草種子の発芽におよぼす土壤水分の影響(日本草地研究会第3回研究発表会講演要旨)
- 草類の種子発芽および初期生育に及ぼす環境要因の影響に関する研究 : II. 数種牧草種子の発芽に及ぼす土壌水分の影響
- 草類の種子発芽及び初期生育に及ぼす環境要因の影響に関する研究 : I. 草類の初期生育に及ぼす光の影響
- 8.オーチャードグラスの生育に及ぼす刈取高さの影響(牧草の栽培,日本草地学会第10回大会講演要旨)
- 2.オーチヤードグラスの最終刈取期に関する試験(草類の生理・生態,日本草地学会第9回大会講演要旨)
- 大豆の葉の機能に関する研究 : 第1報 各葉における乾物重, 窒素, 燐酸, 加里ならびに炭水化物含量の消長について
- 大豆葉の機能に関する研究 : 第1報 各葉における乾物重, 窒素, 燐酸, 加里ならびに炭水化物含有量の消長について (第132回 講演会)
- 大豆の分枝に関する研究 : 第5報 ホルモン処理が出葉並びに分枝の発生に及ぼす影響
- 大豆の分枝に関する研究 : 第4報 旱魃処理が出葉並びに分枝の発生に及ぼす影響
- 大豆の分枝に関する研究 : 第3報 葉剪除が出葉並びに分枝の発生に及ぼす影響
- 馬鈴薯におけるMHの吸収並に転流について
- 大豆の分枝に関する研究 : 第1報 出葉秩序について
- 放牧草地における葉部供給量と牛の増体
- 南方型牧草の再生に関する試験 : 第1報 ダリスグラスの再生長に及ぼす刈取り高さおよび残葉の影響