Kolmogorov-Sinai型エントロピーとその応用(第3回『非平衡系の統計物理』シンポジウム(その1),研究会報告)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
主に電流や電波を搬送波(情報を乗せて運ぶ媒体)に用いる通信過程において,どれほど通信が効率よく行われているかを調べるためにチャネルの数理構造の定式化とエントロピーや相互エントロピーという重要な尺度がShannon等によって導入され,これらを用いることによって古典系の通信理論は数理的に厳密に定式化されている.ところで,1960年にメイマンらによって光(レーザ)を搬送波に用いる技術が開発され,現在,様々な通信システムにおいて用いられている.このような光通信過程で用いられる光は最も基本的な素粒子であるということから,光信号は量子力学的対象として取り扱うことが本来必要であり,従って,光を信号とする通信過程を数理的に厳密に記述するためには,量子力学系における通信理論(量子通信理論)の厳密な定式化が必要となってくる.このような量子系におけるエントロピー理論の研究は,1932年にvon Neumannによって導入されたvon Neumannエントロピーにさかのぼることができる.また,量子系の相対エントロピーはUmegakiやLindbladによって,古典系のShannon型の相対エントロピーの対応で研究され,その後,ArakiやUh lmannなどによって,より一般の量子系へ拡張する研究が行われてきた.また,量子通信理論を定式化するうえで重要となる量子系におけるチャネルの研究は,Ohya,Lindblad,Holevoなどによってなされており,特に,1981年のOhyaによる量子力学的チャネルの数理的な定式化や,リフティングなどとの関わりの研究などをあげることができる.ところで,通信過程のエントロピー解析において最も重要な尺度が,相互エントロピーである.エントロピーそのものは,入力状態のもつ情報の量を表しているが,相互エントロピーは,入力の情報量のうち,チャネルを通して出力系に正しく伝達された情報の量を表しており,通信過程の情報伝送の効率を調べる上で必要不可欠なものとなっている.この量子系における相互エントロピーは1983年,Ohyaによって定式化された.この定式化によって,初めて,光通信過程のエントロピー解析が可能となったのである.さらには,相転移や無限自由度の問題などを取り扱う場合に必要となる一般の量子力学系(C^*-力学系)において,SエントロピーとS-相互エントロピーがOhyaによって導入され,これらの一般の量子力学系におけるSエントロピーとS-相互エントロピーをベースとして,Ohyaは,K-S型平均エントロピーと平均相互エントロピーを状態空間の上に新たに定式化したのである.これらのエントロピーの定式化は量子情報理論おいて符号化の定理を与える上できわめて重要なものである.本論文では,Ohyaによって新たに定式化されたK-S型平均エントロピーと平均相互エントロピーについて説明し,それらを,光変調方式に対して具体的に計算した結果について述べる.まず,第1章では,量子系のチャネル,リフティングと一般の量子力学系のS-エントロピー・S-相互エントロピーについて簡単に復習する.次に,第2章では,一般の量子力学系においてK-S型平均エントロピーと平均相互エントロピーの新たな定式化について説明する.第3章では,これらのK-S型平均エントロピーと平均相互エントロピーを光変調方式(PAM,PPM)によって用意された量子状態に対して具体的に計算する.
- 物性研究刊行会の論文
- 1996-04-20
著者
関連論文
- 一般化量子チューリング機械の数理モデルとNP完全問題の量子アルゴリズム
- Entangled Quantum Markov Chain satisyfying Entanglement Condition (Non-Commutative Analysis and Micro-Macro Duality)
- 2つのEPR状態から作られる入力状態に対するSuperdense codingを含む量子通信過程の情報伝送効率について (情報理論)
- 4ビームスプリッターを用いた量子論理ゲートの誤り確率について (情報理論)
- FTMゲートを用いた量子離散フーリエ変換の定式化について(フレッシュマンセッション,フレッシュマンセッション,一般)
- FTMゲートを用いた量子アルゴリズムの定式化について (非加法性の数理と情報 : 非加法性と凸解析)
- 2つのFTMゲートにより構成されたNAND回路の誤り確率について(フレッシュマンセッション,フレッシュマンセッション,一般)
- FTMゲートを元にした量子論理ゲートの構成について
- 4ビームスプリッターゲートとFTMゲートを用いたNAND回路の誤り確率について(フレッシュマンセッション,フレッシュマンセッション,一般)
- Lifting and Its Application to a Non-Kolmogorovian Model (Duality and Scales in Quantum-Theoretical Sciences)
- Quantum Mutual Entropy Defined by Liftings and Violation of the Shannon Inequality (Duality and Scales in Quantum-Theoretical Sciences)
- Lifting and its application to a non-Kolmogorovian model (量子科学における双対性とスケール--RIMS共同研究報告集)
- 一般化量子チューリング機械と部分再帰関数に関する問題について (非可換解析とミクロ・マクロ双対性)
- 一般化量子チューリング機械とその言語クラスについて(非加法の数理と情報 : 函数解析の視点から)
- IT2000-14 ゲーム理論, その情報構造に関する一考察
- NP完全問題への量子アルゴリズムの応用について
- 量子アルゴリズムを用いたアミノ酸配列のマルチプルアライメントについて
- ビームスプリッターを用いた量子論理ゲートの一考察(第8回「非平衡系の統計物理」シンポジウム,研究会報告)
- 情報力学とその応用 : 複雑系から量子コンピュータまで(第45回物性若手夏の学校(2000年度)(その2),講義ノート)
- スクィズ光とビームスプリッターによって作られた状態のエンタングル性について(フレッシュマンセッション,フレッシュマンセッション,一般)
- スクィズド状態とビームスプリッターを用いた量子テレポーテーションに関する一考察 (応用函数解析としての情報数理の研究)
- 21世紀のIT : 量子情報, 量子コンピュータ, 量子テレポーテーション
- SA-4-2 量子テレポーテーションについて
- 量子情報から電子テレポーテーションへ(第8回「非平衡系の統計物理」シンポジウム,研究会報告)
- IT2010-31 2つのEPR状態から作られる入力状態に対するSuperdense codingを含む量子通信過程の情報伝送効率について(フレッシュマンセッション,一般)
- IT2010-33 3次の項を考慮したFTMゲートの誤り確率について(フレッシュマンセッション,一般)
- IT2010-32 4ビームスプリッターを用いた量子論理ゲートの誤り確率について(フレッシュマンセッション,一般)
- IT2010-30 減衰チャネルと光雑音チャネルを含む量子制御通信過程における情報伝送の効率について(フレッシュマンセッション,一般)
- 位相誤りを考慮した場合のGroverアルゴリズムとASアルゴリズムの効率の比較(フレッシュマン, 一般)
- 非最大エンタングルド状態を用いた量子テレポーテーションの物理的実現
- 大地震における状態のフラクタル次元の時系列変動(フレッシュマンセッション)(フレッシュマン,一般)
- 状態のフラクタル次元を用いた地震現象の解析
- 状態のフラクタル次元による地震現象の解析
- 光雑音チャネルを含む量子制御通信過程における情報伝送の効率について(フレッシュマンセッション,フレッシュマンセッション,一般)
- 量子制御通信過程における情報伝送の効率について(フレッシュマンセッション,フレッシュマンセッション,一般)
- 量子論理ゲートによる計算回路の定式化について (非加法性の数理と情報 : 非線形性・非可換性との接点)
- 3つの純粋状態から構成された混合状態を入力とした減衰チャネルに関する量子相互エントロピーの数値計算について
- 量子直交状態を用いた4入力-4出力ゲートについての一考察(フレッシュマンセッション,フレッシュマンセッション,一般)
- コヒーレント雑音を持つ結合チャネルを包含し、Schrodinger Cat Statesを入力に用いた量子制御通信過程の情報伝送効率について(フレッシュマンセッション,フレッシュマンセッション,一般)
- 結合チャネルを用いた量子制御通信過程の状態の再構成(フレッシュマンセッション,フレッシュマンセッション,一般)
- コヒーレント雑音を持つ結合チャネルを包含し、Schrodinger Cat States を入力に用いた量子制御通信過程の情報伝送効率について
- 量子系の直交状態を用いた量子論理ゲートの誤り確率について
- 結合チャネルを用いた量子通信制御過程の情報伝送効率について
- 一般化した4体クラスター状態におけるエンタングルメントの解析(フレッシュマンセッション,フレッシュマンセッション,一般)
- ペア間推移量を用いた配列アライメント法
- MTRAP法による配列アライメント精度の改善
- 2量子ビット系に対する量子誤り訂正について(フレッシュマンセッション,フレッシュマンセッション,一般)
- Quantum algorithm for SAT problem with entangled degree (Non-Commutative Analysis and Micro-Macro Duality)
- 履歴効果を有したカオス力学系の数理モデルとその解析
- エントロピー進化率を用いたマルチプルアライメントの精度改善
- エントロピー進化率を用いたマルチプルアライメントの精度改善
- カオス尺度を用いたカオス結合系における拡散現象についての考察(フレッシュマンセッション,フレッシュマンセッション,一般)
- エントロピー進化率を用いたチトクロムP450による生物種の分類(フレッシュマンセッション,フレッシュマンセッション,一般)
- 30年余の研究を振り返って (非可換解析とミクロ・マクロ双対性)
- On entangled Markov chains (非可換解析とミクロ・マクロ双対性--RIMS研究集会報告集)
- DDSにおける薬剤の形状決定の数理とシミュレーション
- エントロピー進化率を利用したマルチプルアライメント構築法
- 量子論的通信過程における数理モデルの構成とその解析
- 量子直交状態を用いた量子論理ゲートの定式化について
- 互いに直交する量子状態を用いた4ビームスプリッターゲートの誤り確率について(フレッシュマン, 一般)
- 量子制御過程を含む量子-古典通信過程の情報伝送効率について(フレッシュマン, 一般)
- 情報源符号化定理の量子系への拡張について (情報科学と函数解析の接点 : これまでとこれから)
- 量子直交状態を用いたFTMゲートの誤り確率について(フレッシュマンセッション)(フレッシュマン,一般)
- 制御過程を持った光雑音チャネルの量子通信路容量について(フレッシュマンセッション)(フレッシュマン,一般)
- On Quantum Capacity and Quantum Communication Gate (Mathematical Study of Quantum Dynamical Systems and Its Application to Quantum Computer)
- 量子系の力学的エントロピーを基にした平均相互エントロピーの定式化に関する一考察 (情報科学としての函数解析とその周辺)
- 光雑音チャネルの遷移過程に対するKOW量子力学的エントロピーについて(一般,フレッシュマン,招待講演)
- 制御光を変化させた場合のFTMゲートの誤り確率について(一般,フレッシュマン,招待講演)
- 制御過程を用いた減衰過程における伝送効率について
- チャネルのクラス分けとスクィズドチャネルの導入 (量子情報とその周辺分野の解析的研究)
- Quantum Dynamical Entropy for CP Map (Analytical Study of Quantum Information and Related Fields)
- 8. スクイズドチャネルの情報伝送効率について(第9回『非平衡系の統計物理』シンポジウム,研究会報告)
- スクィズド制御状態を用いた通信過程の効率について
- 情報源の符号化定理とその量子系への拡張について
- 古典及び量子系の通信過程における各変調方式のMMERを用いた情報伝送効率の比較
- On quantum logical gate based on ESR (Analytical Study of Quantum Information and Related Fields)
- 古典-量子チャネル及び量子-量子チャネルにおけるデジタル変調方式の情報伝送効率
- 量子計算過程の量子チャンネルによる定式化
- Quantum Logical Gate Based on Fock Space (Topics in Information Sciences and Applied Functional Analysis)
- 古典及び量子系の通信過程における各変調方式のMMERを用いた情報伝送効率の比較
- On Beam Splittings and Mathematical Construction of Quantum Logical Gate (Mathematical Aspects of Quantum Information and Quantum Chaos)
- On Beam Splittings and Quantum Logical Gate on Fock Space (New Development of Infinite-Dimensional Analysis and Quantum Probability)
- 古典量子チャネルに対する光変調方式の情報伝送効率について(第7回『非平衡系の統計物理』シンポジウム,研究会報告)
- 古典-量子チャネルのMMERを用いた情報伝送効率の比較
- 量子コンピュータにおけるチャネルの定式化とその応用(第6回『非平衡系の統計物理』シンポジウム,研究会報告)
- 結合チャネルの情報伝送効率に関する一考察 (情報数理に関連する応用函数解析の研究)
- On quantum dynamical entropies (Development of Infinite-Dimensional Noncommutative Analysis)
- 結合チャネルの情報伝送効率について(量子情報理論とその応用)
- 量子計算過程の量子チャネルによる定式化 (量子確率論とエントロピー解析)
- 光学的 Fredkin-Toffoli-Milburnゲートについて(無限次元非可換解析学の動向)
- 多重減衰過程における各光変調の効率について
- Kolmogorov-Sinai型エントロピーとその応用(第3回『非平衡系の統計物理』シンポジウム(その1),研究会報告)
- チャネル理論とその量子コンピュ-タへの応用 (量子情報理論の新展開)
- 雑音のある通信路における光変調の効率について
- 偶数と奇数からなる量子状態を用いた量子テレポーテーションについて(フレッシュマンセッション,一般)
- ESRを用いた量子論理ゲートの定式化について(フレッシュマンセッション,一般)
- 量子相関を用いた状態遷移過程の定式化について(フレッシュマンセッション,一般)
- 三角格子イジングモデルにおける量子論理ゲートの定式化(フレッシュマンセッション,フレッシュマンセッション,一般)
- コヒーレント光を制御に用いたFTMゲートの定式化(フレッシュマンセッション,フレッシュマンセッション,一般)
- ビームスプリッターによって生成された量子エンタングルド状態を用いた量子テレポーテーションの定式化(フレッシュマンセッション,フレッシュマンセッション,一般)