微細構成要素レベルにおける腱・靱帯のリモデリングメカニズムに関する生体力学的研究
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概要
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本稿では、我々が腱・靭帯におけるリモデリング(再構築)のメカニズムを解明するために行ってきた、腱や靭帯を構成する微細要素であるコラーゲン線維束を対象とした力学的特性及びリモデリングに関する最近の研究を紹介するとともに、腱・靭帯の巨視的なリモデリングに関する過去の研究と比較検討した。まず、正常家兎膝蓋腱より摘出したコラーゲン線維束の引張特性及び粘弾性特性を調べた結果を、上位構造である膝蓋腱の力学的特性や応力緩和現象と比較すると、コラーゲン線維束の引張強度、接線係数、及び応力緩和は膝蓋腱よりも小さかった。この相違の原因としては、コラーゲン線維束間の力学的相互作用やコラーゲン線維束とプロテオグリカンの間に生じる生化学的な結合の影響が考えられた。また、ストレスシールドの手法を用いて作用する負荷を取り除いた膝蓋腱より摘出したコラーゲン線維束の力学的特性を調べた結果、除荷によって引張強度や接線係数は大きく低下するものの、その変化は膝蓋腱の力学的特性の変化に比べてかなり小さいものであった。凍結処理によって細胞を壊死させた後に、ストレスシールドによって除荷した膝蓋腱のコラーゲン線維束についても、同様の結果が得られた。これより、除荷に対する腱・靭帯のリモデリングにおいては、プロテオグリカン等の線維間マトリックスの変化や、摩擦力等の線維東間の力学的相互作用が関係していることが示唆された。特に細胞が腱内に存在しない場合、膝蓋腱の強度低下に比べて、コラーゲン線維束の強度低下が小さかったことより、細胞によるコラーゲン線維の合成・分解のみならず、線維間マトリックスの変化が、膝蓋腱の強度変化に大きな影響を及ぼすものと考えられた。以上のことより、腱・靭帯のリモデリングにおいては、微細構成要素であるコラーゲン線維束の力学特性が変化するだけでなく、線維束間に生じる力学的相互作用やプロテオグリカン等の線維間マトリックスが機能的に変化することで力学的環境に適応することが明らかになった。
- 1999-10-25