新たに発見された神経症状を呈するラットの解析
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概要
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Wistar系ラットの突然変異体として発見された,振戦を示すミュータントラット(振戦ラット)の組織学的変化について検討した。本研究では生後5,9,13,17,48週齢の振戦ラットについて,HE染色標本観察によるプルキンエ細胞数の変化や形態学的変化を観察した。また,星状膠細胞の動態を調べるために抗Glial Fibrillary Acidic Protein (GFAP)免疫染色を,小脳や小脳関連神経核における神経細胞の変性の有無について調べるためにFluoro.Jade B染色を行い,観察を行った。HE染色標本の観察の結果,生後5週齢の振戦ラットの小脳では著変は認められなかったが,生後9週齢以降の振戦ラットでは1〜IX葉においてプルキンエ細胞の脱落が認められた。生後48週齢の小脳皮質ではX葉を除く,全ての葉の分子層と,一部の葉で穎粒層の菲薄化が認められた。また,全ての週齢において,小脳関連神経核や錐体路では顕著な変化は認められなかった。生後9〜17週齢の振戦ラットでは小脳の分子層のバーグマングリアや小脳髄質の星状膠細胞に,正常対照ラットと比べて強い抗GFAP免疫陽性反応が認められた。生後5週齢の振戦ラットでは分子層の樹状突起に,生後9〜17週齢の振戦ラットではプルキンエ細胞体ならびに樹状突起,バーグマングリア,髄質に存在する星状膠細胞にFluoro-Jade B陽性反応を認めた。本ラットにおいて,生後5週齢でプルキンエ細胞の樹状突起から変性が生じ,変性が細胞体に及んで,プルキンエ細胞が脱落することが判明した。プルキンエ細胞の脱落が認められた小脳のI〜IX葉には,脊髄小脳路や橋小脳路からの神経線維が伸びており,本ラットの病態変化にこれらの神経路が関与している可能性があるが,異常は認めなかった。小脳に変性が生じるラットはいくつか知られているが,本ラットは1)変性部位が小脳に限局している,2)X葉に変化がみられない,3)小脳以外の部位や血液性状,繁殖力などに異常がないこと等が特徴である。これらの点に注目して解析を進めるとともに,生後早期の樹状突起の微細構造の観察や,さらに加齢の進んだ個体の解析などを行うことにより,本ラットの詳しい病態解析に繋がるものと考えられる。