日本企業(1部上場企業)の資金コスト認識について : 長期時系列財務データ(1960年度〜1998年度)による検証
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概要
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日本企業の資金コスト水準に関する研究は、日米貿易摩擦をその一因として1990年代初頭に米国の研究者を中心に多数行われ、さらには近時の企業統治にへの関心の高まりから、企業が投資判断に用いるハードルレートあるいは株主への還元の意味から、企業がどのような資金コスト認識を持つべきなのかと言った課題が多く取上げられてきている。東証1部上場企業総体の60年度〜98年度期間平均簿価基準加重平均総資金コストは3.8%、他人資本コストは2.9%、自己資本コストは0.9%で、バブル崩壊後の他人資本コストの低下は主に金利水準の低下に拠る。また、払込資本金に対する直接的なコストと認識される配当額の水準は、石油ショック以降1%の水準を割り込んだ状況が続いている。65年度〜98年度期間平均時価基準加重平均総資金コストは4.4%(簿価基準コスト+O.6%)、他人資本コスト2.5%(△0.4%)、自己資本コスト1.9%(+1.0%)である。石油ショック前の水準から自己資本コストの減少を主因として△1.5%(負債△0.5%,資本△1.O%)低下し、さらにプラザ合意後は他人資本コストの減少を主因に△1.3%(負債△0.9%,資本△0.3%)低下し、さらにバブル崩壊後に△0.5%(負債△0.2%,資本△0.3%)低下している。このように低下要因が変化しながら、総資金コスト水準は低下傾向にある。1部上場企業総体としてみると、売上高と簿価基準加重平均資金コストが使用総資本額水準の決定に際して認識されていたことが分かった。これは、企業は直接認識できる売上高とキャッシュフローを対象として総資本額の意思決定にあたっていたことを示唆している。また、売上高と時価基準加重平均資金コストが使用総資本額水準の決定に際して認識されていたことが分かった。これらから、企業は市場を通して間接的に認識する株主の要求利回り(株主資本コスト)と、売上高といった直接認識できるキャッシュフローの双方を対象として意思決定にあたっていた可能性を示唆している。このように簿価、時価両基準による検証が符号条件を満たし、ほぼAIC値も同程度にあることから、通説では企業が認識していないとされる時価基準に対数化を図り限界的な変化に関しての検証を再度行った。その結果、時価基準コストもコストとして認識されていた可能性が再度支持された。ただし、単位根の問題を残すため積極的な意味での有意性は確保できなかった。
- 2006-12-31
著者
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