血管壁Cholesterol ester水解活性の研究
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概要
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動脈硬化巣に最も多く蓄積する脂質はcholesterol esterであり,その蓄積機構にはcholesterol esterase(EC 3. 1. 1. 13,以下CEase)が重要な役割を果たしている。ラット大動脈homogenateを酵素液として,CEase活性の調節機構について検討した。放射性cholesterol ester(cholesteryl [1-^<14>C] oleate)とリン脂質のemulsionを基質として用いたときは,CEase活性の至適pHは,pH4.5とpH7.5の2つがみられ,前者は主としてlysosome画分に存在しており,後者は主としてmicrosome画分に,次いでcytosol画分(105000×g上清画分)に存在していた。前者をacid CEase,後者をneutral CEaseと呼ぶ。リン脂質ではpnosphatidylcholineが両CEase活性を上昇させた。Cholesteryl oleate濃度が12.5μMのとき,血清は,血清蛋白量0.8mg/tubeまでneutrol CEase活性を上昇させた。Cholesteryl oleate濃度500μMとき血清は蛋白量0.2mg/tubeまでneutral CEase活性を上昇させたが,それ以上の血清の添加は逆に活性を低下させた。またリポ蛋白もneutral CEase活性を上昇させた。Cholesteryl [1-^<14>C] oleateをとりこませたreconstituted LDLを作成してラット大動脈壁homogenateとincubateしたところ,pH4.5にのみcholesterol ester水解活性がみられた。アセチル化されたreconstituted LDLをラット腹腔macrophageのhomogenateとincubateしたときも,pH4.5のみにcholesterol ester水解活性がみられた。以上のことは,LDLとして動脈壁細胞にとりこまれたcholesterol esterはまずlysosomeで水解されることを推測させ,さらにneutral CEaseの役割は外因性にもたらされたcholesterol esterの水解ではないことを推測させる。基質のちがいによってpH7.5の水解活性が変動することは基質の存在状態がcholesterol esterの水解に重要であることを推測させる。次にneutral CEaseの役割を探るために,ラット大動脈homogenateの105000×g上清に出現するneutral CEase活性と,microsome画分とTriton X-100とをincubateして可溶化されてくるneutral CEase活性の両者をheparin-Sepharose affinity chromatographyにかけてその性質を比較した。両者ともheparin-Sepharoseに吸着される画分が存在したので,この吸着された画分について105000×g上清由来のneutral CEase活性と,microsomeから可溶化された酵素に由来するneutral CEaseを比較したところ,前者はリポ蛋白で活性が変化しなかったが,後者はリポ蛋白によって活性が著しく上昇した。即ち両者は性質が異なっていると考えられた。動脈硬化巣にみられる蓄積脂質と同様の組成の基質(以下,人工脂質球と呼ぶ)を作成して,ラット大動脈homogenateを酵素液としてcholesterol ester水解を測定した。人工脂質球のcholesterol ester以外の成分-リン脂質,中性脂肪,遊離cholesterol-を変化させるとcholesterol ester水解活性に変動がみられ,とくにリン脂質の質と量によって大きく活性が変動した。このことから105000×g上清に出現するneutral CEase活性は細胞内にlipid dropletとして沈着したcholesterol esterの水解に働くと推測しているが,microsomeのneutral CEaseとの異同についてはさらに検討する必要がある。人工脂質球におけるcholesterol ester水解がその脂質組成によって変動すること,さらに人工脂質球の作成温度,cholesterol ester/リン脂質emulsionの作成温度によってcholesterol ester水解活性が大きく変動することから,cholesterol ester水解を左右する基質の存在状態のひとつには,リン脂質,cholesterol esterの相転移による状態の変化を挙げることができる。
- 1985-02-01
著者
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