形態認知の発達的研究II
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概要
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前実験からの発展として,図形概念はどのように形成されてゆくかを問題とし,殊に図形概念の範囲,内容,概念化に際してとられる手がかりについて検討することを目的として実験を行なった。前実験で用いた8図形を標準図形とし,各標準図形ごとに次のような各々21ケから成る変化図形群を設ける。イ,正概念図形(成人の図形概念では標準図形と同類とされる図形で,標準図形と全く同一のものの他,大きさ,方向,縦横の比率等を異にするもの)2ヶ-8ヶ。ロ,変図形(標準図形とは異なった種類の図形だが,標準図形と何らかの類似点,共通点をもつ図形)いずれも7ヶ。ハ,サクラ図形(被験者のでたらめな反応をチェックするために設けた,明らかに異質な図形)12ヶ〜6ヶ。標準図形と比較図形1ヶ(ランダムな順序でとり出された)を対にして呈示し,予め訓練した方法によって類同判断を行なわせる。一標準図形について21回の判断を行ない,最後に,同一視した図形について順位をつけさせる。この手続を8系列行なうことになる。図形はいずれも,15×13(cm)の台紙に貼布されてあり,視覚的弁別のみで判断を行なう。被験者は3才から7才までの幼児。各年令段階ごとに16人ずつで,そのI.Qはいずれも均等である。以上の方法により,次のような結果が得られた。1.類同視した図形中第1位に順位づけた図形が,標準図形と同一の図形であるかどうかをみることにより,それぞれの標準図形の知覚の正確度を吟味したところ,年令上昇に伴なって正確度も増すこと,図形間に弁別の難易があることが見出された。2.各標準図形系列ごとになされた類同視図形数から,その図形の概念範囲ともいうべき側面がみられるが,これについては有意な一定の年令的変動は認められなかった。これは一つには比較図形の設定の仕方に不備があるためとも考えられ,別な条件設定での検討が必要と思われる。3.類同視した図形の内容が変化図形中の正図形群変図形群いずれをどのように含んでいるかという観点から,イ,ロ,ハ,ニの4種のタイプに分けて分析した。その結果,年令段階によってこの4タイプは異なった比重をもっていること,即ち,年少段階では正図形,変図形に広く類同視をしているニ,ハのタイプが比較的大きい比重を占めているが,年長になると,これらの類同視は減少し,代って正図形を中心とする類同視が増加する。このような年長児と年少児との相違は,形の概念を形成する際に,どのような共通性によって類を形成するか,又適切な一般性のある共通性を抽出しうるかどうか,に関して相違のあることを示唆していると考えられる。4.又標準図形によっても,イ〜ニの4タイプの現われ方は異なる。例えば,円系列においては最も高い概念レベルと考えられるイのタイプの類同視が,他の図形系列ではみられない程,多く現われているし,他方,三角形や矩形では全くみられず,とみタイプが多い。これらの差は,図形によって抽出されるべき共通性に関して,難易の差があることを示している。このような図形差が存在することは,一つには系列によって正図形数が異なることにもでよると疑われるが,更にそれぞれの図形の弁別の難易が,その図形概念レベルの高さを規定するといった関係があるのではないかが示唆された。5.以上の結果は,いずれも,図形概念の形成に際して,一般的な適切な共通性を把握することが可能か,又どのような特性が共通な属性として抽出されるか,といった点に関して幼児の発達段階により,又図形によって差があることを示しているが,これを更に肉づけするために,次回に報告する実験が計画された。
- 東京女子大学の論文
- 1964-03-20