琉球西表島の土壌に関する研究
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概要
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著者は1960年3月5日から同4月5日に亘つて琉球列島八重山群島の西表島の土壌調査を行なつた.この調査においては一部を除いて殆んど全島の各地区において合計106カ所の試坑調査を行うとともに, 表層土106点, 下層土92点計198点を採取してその理化学的性質を調査した.成績を要約すると次の如くである.1.土層の深さ傾斜急な地域は侵蝕がはげしいために土層は浅く30-40cmであるが, 地域の大部分は土層厚く70-100cmまたはそれ以上である.2.土性一般的にいえば表層土は砂分が多く砂質土であるが下層土は埴質土である.これを地質別にみると次の如くである.本島の約9割を占めている第三紀層砂岩及びこれに由来する租納礫岩の風化土は砂質で表層土は砂壌土(SL)または砂質埴壌土(SCL), 下層土は砂質埴土(SC)または埴土(LiC)である.古生層の土壌は表層土が砂質埴壌土(SCL)または埴土(LiC)であり, 下層土は埴土(LiC, HC)で第三紀のものに比べると粘土分が著しく多い.安山岩質集塊岩などに由来する土壌の土性は表層土, 下層土ともに埴土(HC)である.隆起珊瑚礁の風化土は表層土が砂質埴壌土であるが下層土は埴土(LiC, HC)である.この表層土が砂質であるのは周囲の第三紀砂岩風化土の影響による.河川の流域の冲積地の土壌は砂質土が多く, 上流地帯は埴壌土のものもあるが, 下流地帯は砂土が多い.河口附近には干潟が広く発達しているが大部分は砂土で, 場所によつては貝殻層を挾んでいる.海岸の湾入部の外側に砂丘が発達してその内部に低湿地を形成しているが, この土性は海岸寄りは砂土であり, 内部に入るに従つて粘土分を増して壌土または砂壌土となつている.低湿地内の土壌は腐朽物質の含量が多く腐植土をなすものがある.山間または丘陵地の谷間の低湿地の土壌は周囲の山から流入した粘土分の集積によつて土性は埴質土となつている.3.土壌の物理的性質ことに下層土は緻密で, 粘着性強く, 乾燥すると固結し, かつ透水性極めて不良である.この性質は本島のように雨量の多いまた強雨に見舞われるところでは土壌の浸蝕を助長する.4.腐植含量と土壌の色森林原野には表層に5〜20cmの厚さの腐植の集積層があつて暗褐色を呈し, 風乾土の色は灰色または灰褐色を示す.森林土壌と原野土壌とは腐植の含量に相違があつて前者が顕著に高く平均4.75%であり, 原野土壌の平均が2.93%である.また森林内では標高の高い程含量が高い傾向がある.島の植生からみると腐植の含量は低い方である.これは本島が高温多雨の気象条件下にあつて有機物の分解が激しく腐植の集積が少ないためである.下層土は腐植含量が少なく, 土壌の色は黄色, 褐黄色, 褐赤色または赤色を呈し, 前二者は主として林地土壌の色であり, 後二者は原野土壌の色である.河川の流域にあるマングローブ地帯やアダン密生地の冲積地には15〜20cmの下部に厚さ30cm内外のこれらの腐朽物質の集積層がある.また海岸の砂丘で塞がれてできた低湿地の土壌は腐朽物質の集積が多く, 時として厚い泥炭状の堆積物となつている.5.窒素の含量と有効度窒素含量は森林原野土壌の総平均が0.16%であるが, その内森林土壌の平均が0.23%, 原野土壌の平均が0.14%で前者が明らかに高い.有効態窒素の生成量は森林原野土壌の総平均が8.3mgで可なり大きい値を示しているが, これを地目別にみると, 森林土壌の平均が16.2mg, 原野土壌の平均は5.5mgで前者が頗る大きい.また原野土壌においても第三紀風化土が小さく, 平均3.4mg, 隆起珊瑚礁風化土, 安山岩質集塊岩風化土及び古生層風化土が顕著に大きく, これらの平均な10.0mgの値を示している.6.反応及び置換酸度森林原野土壌の総平均においてpH(H_2O)が表層土で5.2,下層土で4.3,pH(KCl)が表層土で4.7,下層土で4.0であり, 置換酸度Y_1は表層土が6.6,下層土が17.8である.地質別にみると隆起珊瑚礁風化土を除いて殆んどが強酸性で置換酸度も高い.隆起珊瑚礁風化土では表層土が第三紀風化土の影響をうけてやや強い酸性を呈しているが, 下層土は基岩の珊瑚礁の影響をうけて酸性は弱められている.低湿地において現在水田または河川の流域の沖積地の土壌の反応は中性または微塩基性である.この内, 現在海水の影響をうけているマングローブ地帯にみられるオキナハアナジャコ(?)の盛土(巣)の反応は現地湿潤土のpH(H_2O)で3.0前後の強烈な酸性を示している.また, 同地帯の土壌の反応は現地の自然の湿潤土のままではpH(H_2O)は8.0前後であるが, これを乾かして畑状態の水分状態で放置しておくと土壌の反応はpH(H_2O)2.0〜3.0の強烈な酸性を呈するようになる.一般に森林原野の土壌は下層土が表層土より酸性が強く, かつ, 酸度も高い.7.置換容量土壌の置換容量は森林原野の総平均が表層土で10.31me., 下層土で10.17me.であるが, 森林土壌では表層土が12.26me., 下層土が10.60me.原野土壌では表層土が9.58me., 下層土が10.17me.である.8.置換性塩基の含量一般に本島土壌の置換性塩基(有効性石灰, 苦土及び加里)はいずれも著しく少ない.石灰は森林原野土壌の総平均が土壌100g当り表層土が2.15me., 下層土が2.01me.であり, 苦土は同じく表層土が1.63me., 下層土が1.32me., 加里が表層で0.24me., 下層土で0.16me.である.地質別にみると, 石灰及び苦土は第三紀層風化土に少なく, 安山岩質集塊岩及び古生層粘板岩の風化土にやや多く, 加里はいずれも少ない.珊瑚礁土壌はいずれも他に比べて著しく多い.9.燐酸吸収係数及び有効燐酸量燐酸吸収係数は森林原野土壌の総平均が表層土で149,下層土で243で小さい.地質別にみると, 粘土含量の多い安山岩質集塊岩, 古生層及び隆起珊瑚礁などの風化土において大きく, 第三紀層風化土において小さい.有効燐酸量はいずれの土壌においても著しく少ない.10.以上の結果から西表島の土壌を地質母岩別に比較すると, 安山岩質集塊岩, 古生層及び隆起珊瑚礁などの風化土が比較的肥沃であり, 第三紀層の風化土は最も劣るといえる.しかし, 一般的にいつて, 本島の土壌は有機物及び窒素の含量が少なく, 有効性の石灰, 苦土, 加里及び燐酸に乏しい.また強酸性で置換酸度も高い.開墾当初の数年間は窒素的に肥沃であるが, その後は有効窒素に急速に欠乏し, また他の成分も土壌の急激な風化溶脱のために急速な消耗を来たして地力の低下が考えられる.従つて将来西表島の農業開発に際しては土壌の改良並びに合理的な管理が必要である.
- 鹿児島大学の論文
- 1961-11-25
著者
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