ヤムイモ(Dioscorea spp.)における導入系統の生態および形態的特徴と評価
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
36系統のダイジョ(D.alata L.)について系統の特性の解析と評価を行い, 南九州に適応する系統を選定するための基礎資料を得た.1.ダイジョにおける塊茎の着生時期, 着生期の展開葉数および塊茎の大きさは系統間で変異した.そして, 植付け期から塊茎着生期までの期間の平均値は34日であり, 着生期の展開葉数の平均値は6.8枚であった.ダイジョにおける塊茎の肥大生長の開始期は系統によって約2ヵ月の違いがあり, その後の登熱過程における塊茎の水分含量の変化も系統によって変異した.この肥大生長の開始期と登熱過程における水分含量の推移を基礎に系統を2グループに分類しうることが明らかとなった.その1つは肥大生長期から収穫期にかけて, 塊茎の水分含量が約10%低下するという共通的な特性を有し, 他のグループは肥大生長期から収穫期かけて塊茎の水分含量はほとんど不変で高い値を維持した.そして, 前者のグループでは, 塊茎の肥大生長が早期に開始され, 塊茎の肥大生長と登熱がほぼ同時に進行し, 後者のグループでは肥大生長の開始期が概して遅く, 肥大生長と登熱が同時に進行しないことが明らかとなった.生育パターンの異なる系統の日長に対する感応から, ヤムイモの塊茎の肥大生長は第一義的に, 短日によって誘起されるが, その光周反応は系統間で異なること, さらに, いずれの系統においても生育の進行に伴う加齢効果が認められることが明らかとなった.以上の結果を総合して, 早生系統は感光性が弱く, 塊茎が早期に肥大し始め, さらに早期に登熱過程に入る特性を有し, 晩生系統は逆に感光性が強く, 塊茎の肥大生長の開始および登熱が遅い特性を有すると推定された.つぎに, 塊茎の乾物重(y)と生育期間中の茎葉の乾物重(x)との間にはy=0.73x+58.93,r=0.85の高い相関関係の存在が確認された.2.ダイジョの茎葉および塊茎の形質は系統間で類似のものが多く, 系統の識別には応用し難いものであったが, それらの形質の中で, アントシアニンの有無, 萌芽茎数および葉形などは, 系統の分類や選抜並びに適応品種の選定に利用しうることが明らかとなった.茎と塊茎のアントシアニンの発現は必ずしも連動するものではなかったが, 茎と塊茎外皮色のアントシアニンの発現は約90%が連動し, 茎と塊茎肉色とは40%が連動した.萌芽時の茎数と収穫時の塊茎数の間には高い相関関係が認められ, 萌芽茎数から収穫塊茎数を高い確率で推計できることが明らかとなった.ダイジョの葉形は心臓形からくさび形まで変異が大であり, 供試系統中, 心臓形が42%, くさび形が47%, 中間形が11%を占めた.萌芽時の茎数が2本以下の系統集団では心臓形から中間形のものが74%, くさび形が26%を占め, 2本以上の系統群では逆にくさび形が70%, 心臓形と中間形が30%を占めた.このような萌芽期の茎数および収穫時の塊茎数と葉形との関係から, 心臓形にはいも重型, くさび形にはいも数型とも呼べる形質の発現が大であり, これらは系統選抜にある程度利用しうる形質と考えられた.3.ダイジョの収穫塊茎を20℃で貯蔵した場合, 塊茎の休眠期間は10週から20週まで系統間に大きな違いがあり, 供試系統の平均休眠期間は14週であった.そして, 貯蔵適温が保持されれば収穫期から春の植付け期まで休眠状態で高品質の塊茎の貯蔵が可能であることがわかった.なお, この貯蔵期間中に塊茎の生体重が平均で13.5%減少したが, 休眠期間の長短と生体重との間には相関は認められなかった.4.ダイジョの下ろし液の粘度を25℃の条件下でB型粘度計で測定した.その測定値からみかけ粘度, 非ニュートン粘性係数および粘性指数を求め, つぎに, ずり速度およびずり応力からCassonプロットを作成した.この特性値から, ジネンジョの値はいずれもナガイモやソロヤムの値よりも大きく, ジネンジョが加工適性に優れたヤムイモであることが分かった.また, ソロヤムと同程度の強い粘性および高い加工適性をもつ有望系統Nos.6,20および22の存在とその他の系統の値はナガイモの値に類似であることが明らかとなった。
- 1995-03-31
著者
-
志和地 弘信
International Institute of Tropical Agriculture
-
林 満
鹿児島大学農学部
-
張 光鎮
鹿児島大学農学部
-
志和地 弘信
作物生産学
-
張 光鎮
作物生産学
-
林 満
作物生産学
関連論文
- 紫果物時計草の人工受粉による結果率および果実品質の向上
- 土壌水分に対するサトウキビ品種の生育反応の比較 : 地域適応性を異にするNCo310とNi1の比較 (品種・遺伝資源)
- 真正種子(TPS)由来のスモールチューバー(small tuber)の効率的な生産法の確立
- ヤムイモ(Dioscorea spp.)の生育並びに塊茎の肥大生長について : 第3報 ジベレリンがダイジョ(D.alata L.)の茎葉及び塊茎の生長並びに休眠に及ぼす作用
- 牛糞堆肥の施用がメロンの生育,収量,品質と培養土の理化学的性質に及ぼす影響
- ダイジョ(Dioscorea alata L.)塊茎の肥大生長の転換と内生ジャスモン酸含量の推移との関係
- 26. ジベレリンがダイジョ(超極早生系統)およびナガイモの生育に及ぼす作用
- ダイジョ(Dioscorea alataL.)塊茎の肥大生長の転換と内生植物ホルモンとの関係
- In vitroにおけるダイジョ(Dioscorea alata L.)幼植物の生育およびミニ塊茎の肥大生長に及ぼす植物生長調節物質の作用
- ダイジョ(Dioscorea alata L.)の生育に及ぼすジベレリン, アブシジン酸およびウニコナゾールPの作用
- ネパール高地から導入されたダイジョ(Dioscorea alata L.)系統の温帯における生育特性
- 形態的形質およびRAPD法によるヤムイモ(Dioscorea spp.)の種の分類と系統の区分
- ジャガイモにおけるsmall tuberを利用した種イモ生産並びにGA処理による休眠打破
- ダイジョ(Dioscorea alata L.), ナガイモ(D.opposita THUNB.)およびジネンジョ(D.japonica THUNB.)の光周反応
- ダイジョ(D.alata L.)とナガイモ(D.opposita THUNB.)およびジネンジョ(D.japonica THUNB.)における諸形質の比較
- ヤマノイモ(Dioscorea spp.)塊茎タンパク質による系統間の比較
- ヤムイモ(Dioscorea spp.)における導入系統の生態および形態的特徴と評価
- ダイジョ(Dioscorea alata L.)塊茎の休眠覚せいと内生ジベレリンとの関係
- ダイジョ(Dioscorea alata L.)塊茎の休眠並びに休眠覚せいと外的要因との関係
- 25. ダイジョ塊茎の休眠期におけるジャスモン酸の量的変化
- 水稲苗代期の低温障害に関する研究 : 低温処理が稲体の諸形質におよぼす影響 (形態)
- 水稲苗代期の低温障害に関する研究 : 1.低温処理が稲体の諸形質におよぼす影響
- ヤムイモ(Dioscorea spp.)塊茎の肥大生長に関する生理・生態学的研究 : 第2報 ミニ塊茎の肥大生長に対する植物生長調節剤の作用の検出
- サトウキビ品種NCo310とNi1との耐早性の比較
- ヤムイモ(Dioscorea spp.)塊茎の肥大生長に関する生理・生態学的研究 : 第1報 塊茎による生物検定法
- 熱帯農産物の需給と展望 : II. サトウキビ, その多様な使途と役割
- 導入ダイジョの2,3の特性に関する記載
- サトウキビ種茎の発芽力について : 側芽の物理的要因と内的要因に関する考察
- 農場技術調査報告書の発刊に当たって
- ヤムイモ(Dioscorea spp.)の生育並びに塊茎の肥大生長について : 第2報 ソロヤム(Dioscorea alata L.)の塊茎の肥大生長に及ぼす環境要因の影響
- ヤムイモ(Dioscorea spp.)の生育並びに塊茎の肥大生長について : 第1報 導入品種ソロヤム(Dioscorea alata L.)の生育の特徴
- 稲種子の休眠性および発芽性に関する研究 : XI.休眠解除と内生ジベレリン様物質との関係
- 稲種子の休眠性および発芽性に関する研究-10-ABA(アブシジン酸)の施用が種子の休眠および発芽に及ぼす影響
- 稲種子の休眠性および発芽性に関する研究-6-休眠種子の発芽抑制物質のガスクロマトグラフィ-による同定
- 稲種子の休眠性および発芽性に関する研究-4-抑制物質及びオ-キシの種子内の存在部位及びそれらの種類