斜面崩壊と火山性堆積物の土質工学的性質
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概要
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1976年6月鹿児島県中部で梅雨型豪雨による多くの斜面災害が発生した.筆者等は斜面崩壊の現地調査と採取した火山性堆積物の土質試験を行なった.その結果をまとめると以下のようになる.(1)斜面崩壊地の基岩の地質はシラスだけでなく, 安山岩, 溶結凝灰岩および堆積岩など多様である.そしてそれらの斜面のほとんどを火山灰土, 降下軽石がおおい, この土質が斜面崩壊に重要な役割を演じている.(2)崩壊した斜面の種類には地域性がみられる.鹿児島市の斜面崩壊は14箇所中11箇所が人工および複合斜面で発生している.ほかの地域では自然斜面の崩壊箇所数が人工および複合斜面のそれの2倍以上になっている.(3)人為的および地質的につくられた旧地形が斜面崩壊におよぼす影響は大きい.(4)斜面崩壊の形態は表層スベリ, 表層落下, 盛土崩壊および盛土崩壊・表層スベリの複合形態の4種類である.形態の違いにかかわらずシラスが一義的に崩壊した例は一つもない.崩壊形態にも地域性がみられ, 鹿児島市以外の地域は表層スベリ, 表層落下がほとんどである.斜面崩壊の原因には土の自重増加, パイピング, 地表水落水, 地中水位増加およびそれらの複合が考えられる.(5)土質柱状図によって, スベリ面を境界にして火山灰土, 降下軽石の上層と古土壌(旧地表面), 風化シラス, シラスの下層との間に土質工学的性質の違いが確かめられた.とくに降下軽石の透水係数は非常に大きく, これが斜面崩壊の大きな原因となっている.(6)斜面崩壊の規模は降雨量, 斜面の種類, 形状, 崩壊形態などによって影響される.崩壊土砂到達距離は斜面の高さだけでなく, 崩壊土砂量, 斜面下の地形などの要因の影響をうける.(7)降下軽石, 火山灰土の斜面上の堆積限界傾斜はそれぞれ35,42度である.崩壊の可能性からすると, この堆積限界角度以内の傾斜の斜面が危険である.(8)この地域の火山灰土, 降下軽石およびシラスは噴出時代の新しい火山性堆積物である.このことから関東ロームと比較すると, 塑性図の位置の違いにみられるように, 土質工学的性質は著しい差を示す.
- 1978-03-19