南九州とくにシラス地帯における水稲生育に及ぼす灌漑水温の影響
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概要
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普通期水稲の生育, 収量と灌漑水温との関係を品種特性との関連のもとに解明し, 暖地における水温問題の特異性を探索したものである.I.晩生稲の秋落ちと昼間水温の低下との関係(1)低水温効果の生育時期別観察大型水槽2つを設け, 1つは昼間(9AM〜5PM)水道水を掛流し, 他は貯溜とした.このなかに1/5000アールのポットに植えた水稲(品種瑞豊)を入れ, 所定の期間づつ一方から他方から地方に移動させた.水温条件は貯溜区の日中最高29〜35℃に比べ掛流し区のそれは25〜29℃であった.生育時期別処理の効果はできるだけ長期間にわたって掛流し処理を行なうことが, 収量を増大させるうえで効果的であることがわかった.ただしこの場合, 掛流し処理期間のなかに幼穂発育期を含むことが不可欠の条件であり, この時期を貯溜状態におくことは前段階における掛流し処理の効果を消去してしまうこと, 逆に他時期は貯溜状態であっても幼穂発育期のみ掛流しを行なうことにより, 相当の増収を期待し得るということである.これを生育様相から見ると, 幼穂発育期の水温低下により上位2葉は長く, 下位葉の葉枯れの進行がおくれ, 稈長ならびに1穂粒数が増加し, 出穂後の好天に恵まれれば1000粒重の増大も可能であることが認められた.(2)根の発育に及ぼす低水温の影響全期間掛流し区および貯溜区における根の発育様相を調査した.新根の消長に着目すると, 幼穂分化期(出穂前30日)附近を中心に明瞭な区間差が認められ, 掛流し処理により新根発生量のピークが貯溜区により約1週間おくれて現われるとともに幼穂発育前期における新根重, 新根数がともに大となった.一方幼穂発育後期における根の減少過程においても, 黒色根(腐根を含む)の発生は掛流し区において少なく経過したことから, 水温低下が根に対する明瞭な老化抑制効果をもつことが認められた.(3)稲体主要成分の消長に及ぼす低水温の影響全期間掛流し区と全期間貯溜区における稲体の全窒素, 粗澱粉, 全糖, 粗灰分の推移を対比した.乾物重における差異は幼穂分化期以降に明瞭で, 時期的にみて最初に根, 次に茎葉, 穂と順次に掛流し区が貯溜区を凌駕した.茎葉の全窒素濃度は処理期間中掛流し区がつねに高く, したがって前記乾物重における増加を反映して株当り全窒素含量は, 出穂期を中心とし, 分けつ末期から登熟中期にかけて同区において著しく大となることが特色的であった.一方茎葉澱粉濃度は窒素とは逆に掛流し区において低く経過したが, 株当り澱粉含量においては乾物重の傾向を反映して出穂期以降は同区においてやや勝る傾向がみられた.全糖, 粗灰分については明瞭な区間差は得られなかった.以上(1), (2), (3)を総合して, 長稈穂重型の晩生稲の生育に対し, 幼穂発育期を中心とした日中水温の低下が, 秋落ち型から秋優り型えの転換をもたらすうえで極めて効果的であることが確認された.II.生育各期における水温と中性稲の生育様相について(1)分けつ期の水温の高低と生育収量との関係農林18号を用い圃場において, 分けつ期間水道水を掛流しすることによって生ずる低水温の影響を検討した.なお平均水温は取水口で約21℃, 出水口は約31℃, その間水口からの距離に応じて段階的に異なる水温条件が得られた.茎数の推移に着目すると, 分けつ初期には高水温区ほど茎数が大であるが, 次第に低水温区が追越し, とくに平均水温25℃附近を境とし水温の高まりにつれて有効茎歩合が低下し, 出水口附近では明瞭な穂数減となることが認められた.一方平均1穂粒数ならびに1000粒重は穂数増の補償作用と思われるが, 水温の低下とともに漸減しとくに取水口近くの水温区において少となった.これらを総合して, 1株当全籾数および収量は平均水温25〜26℃, 最高水温30℃以下に押えた区において最大をしめし, それより水温が上下するにつれて減少することが明らかとなった.なおこれを裏付けるように, 幼穂分化期における株当り全窒素量もまた同水温区において最大であった.(2)幼穂発育期の水温の高低と幼穂発育との関係農林37号と農林18号を用い, 屋外とガラス室の両所で, 幼穂発育期間中, 37℃, 32℃, 26℃の恒水温下で行なったポット試験の結果は次の通りである.第1に37℃区においては, 32℃, 26℃両区より幼穂の発育ならびに出穂が遅延し, 1穂の分化頴花数, 発育頴花数ともに減少する反面発育停止頴花数が著しく増加した.とくにガラス室内の高気温下では, 幼穂発育の遅延は一層甚しく, 遂に処理期間中出穂をみなかった.第2に32℃区は26℃区に比べて, 幼穂の発育の進度はほぼ同じで, また1穂の分化頴花数にも差異はみられなかったが, 発育停止頴花数の増加をみたために, 1株総発育頴花数は減少した.以上の幼穂発育様相と対応して根の発育の推移をみると, 37℃, 32℃両区では幼穂発育後期には根重, 根数ともに減少の段階にあるが, 26℃区では出穂期まで漸増する傾向がみられた.また黒色根の発生も
- 1971-09-25