現代マグリブ方言における短母音下位システムと長母音体系との関係
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概要
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現代アラビア語方言を分類する場合,必ずしも実際の生活形態と一致するものではないが,「定住民方言」と「遊牧民方言」とに分類する方法がある。一般的には古典アラビア語のqafが定住民方言は無声音で,遊牧民方言は有声音で実現される。Cohen(1970)は北アフリカの諸方言の短母音体系を観察し,定住民方言は/u/:/non-u/,遊牧民方言は/a/:/non-a/という短母音下位システムを持っていることを示唆している。一方長母音に目を向けると古典語の二重母音が長母音化している場合,遊牧民方言は5長母音体系,定住民方言は3長母音体系を持っていることがわかる。このことから5長母音体系と/a/:/non-a/短母音下位システム,3長母音体系と/u/:/non-u/短母音下位システムはそれぞれ密接に関係があるように見える。北アフリカでは短母音音素の数が1(Algiers-Jewish), 2(Tunis-Jewish), 3(Tunis-Muslim, Marazig), 4(Maltese, Hassaniya)など方言により様々であるが,本研究では各方言で観察しうる短母音の中和現象から,Cohenの提唱した下位システムがそれぞれの方言の短母音音素の数に関わり無く存在することを示し,またこの下位システムが古典アラビア語の二重母音の長母音化の課程にどのように影響を与えるかを明らかにする。
- 2000-03-31