現代ペルシア語における動詞型の統語論的研究
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概要
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現代ベルシア語における動詞型(文型)の研究は全く未開拓の分野であり、管見に触れた限りでは、いかなる文法書も詳しく取り上げてはいないようである。言語学的問題としてのみならず、語学教育的観点からも研究されるべき課題である。文を構成する要素は、以下の機能を有する;(1)文法的機能(grammatical function)(2)意味的機能(semantic function)(3)談話構造的機能(discourse function)いわゆる動詞型は、文の要素と呼ばれる主語・動詞・目的語・補語・副詞句の5つによって、文の構成を分類したものであるが、これは即ち「文法的機能」による分類である。また、文の要素がそれぞれ担う意味役割、とくに格(case)に焦点を当てた分析を「意味的機能」による分析ということが出来よう。さらに最近では、新情報(new information)、旧情報(old information)といった概念によって文の相互関係を分析する方法がとられる。これは、所謂「談話構造的機能」による分析である。本稿の目的は、動詞型研究に於て最も参考とすべき英語の動詞型を参考にしながら、いまだ不分明であるペルシア語動詞型の文法的機能の分析による体系的分類を試みることにある。英語の文型研究の歴史の中で我が国でもよく知られたものに、Onions(1929)の5文型が挙げられる。その他、Jespersen(1937)やCurme(1931)、あるいはPalmer(1938)などがそれに続くが、英語文型研究においてHornby(1956)を越えるものはないだろう。ペルシア語の文型研究については、Windfuhr(1979)によれば、最近ではVosuqi(1972)が4つの「核文(kernel sentences)」を認めている。ペルシア語のシンタクスにおいて、所謂論理的統語論が主流であったなかにおいて、文は主部と述部に大別され、機能的な順序を動作主(agent=subject)、目的語(object)、副詞(adverb)、動詞(verb)とした。Vosuqiのいう「核文」も基本的にはその域を出ていない。Jensen(1931)やLazard(1957)においても、それぞれ'le sujet,le predicat'あるいは'das Subjekt, das Pradikat'に分け分析するに留まっている。日本語による文法書では黒柳(1982)がある。著者は「文型」の項でペルシア語の単文の文型は原則として日本語のそれと同じとしたうえで、6つのパターンを提示している。黒柳(1982)によるこの分類は「文型」というほどのものではなく、基本的にはVosuqiと大差ない。動詞型を決定する上で問題となるのは、ある文(単文)を構成する要素がなくてはならないものかどうかということである。文を構成する要素には、それがないとその文の意味が完結しないもの即ち「義務的(obligatory)」な要素と、あってもなくてもよいもの即ち「任意的(optional)」な要素がある。動詞型とは、動詞を中心に据えた「義務的」な文の構成要素を表示したものである。たとえば、次の2文;(a) 'an zan wiski-ra ba 'ab 'amixt.「その女はウイスキーを水で割った」その女ウイスキー〜と水混ぜた(b)*'an zan wiski-ra 'amixt.「*その女はウイスキーを割った」において、ba「〜と」という副詞的語句を伴わなければ、意味の完結性という観点から(b)は非文となる。また、例えば目的語として名詞を義務的な要素としてとるといっても、それが単なる名詞句である場合もあれば名詞節(ke節)である場合もある。日本語によるペルシア語辞書を含めて、この様なきめの細かい動詞型の表示がなされている辞書はいまだみられない。ペルシア語の動詞型は以下の7型である。これには形容詞型((7)S+C+A+V)も含まれる。(1)S+V (2)S+C+V (3)S+A+V (4)S+O+V (5)S+O+A+V (6)S+O+C+V (7)S+C+A+V (S=主語、V=動詞、C=補語、A=付加詞、O=目的語)その他、ペルシア語には特殊構文とよばれるものがいくつかある。なかでも破格構文や非人称構文はよく知られたものであり、ほかにdashtanによる場所表現の文などが挙げられる。破格構文は心理的主語構文とも呼ばれ、心理的主語の前置化などと説明されているもので、2重主語をその特徴とし、日本語ではよく知られた「象は鼻が長い」式の構文と同種のものである。この構文は意味的に所謂「迷惑の受身」を表すこともある。非人称構文は意味上特定の論理的主語をもたず、動詞としては常に3人称単数である動詞をもつ構文をいう。一般に「好悪の感情・精神状態(気分)」などの表現において多くみられ、特に'amadan「来る」、'oftadan「落ちる」、dashtan「持つ」などの動詞によるものが多い。dashtanには通例主語に有生物をとる「所有文」としての機能と、無生物主語とくに場所を表す主語をとる「場所文」の機能という2種類の表現機能がある。所有文はbudanによる書換えができないが、場所文ではそれが可能である。本論では、現代ペルシア語の動詞型の大枠およびその他の特殊な構文を示し、若干の論考を加えた。今後はさらに個々の動詞についての細かい記述を目指したい。
- 日本中東学会の論文
- 1994-03-31
著者
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