トランスジェニックマウスを用いたコプラナーPCBsの毒性評価(研究サブ・グループ4,麻布大学ハイテク・リサーチ・センター研究プロジェクト「ダイオキシン類(コプラナーPCBsなど)の生体影響評価と植物による環境モニタリングおよび環境浄化技術の開発」,ハイテク,平成15年度麻布大学公的研究助成金事業研究成果報告)

概要

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内分泌撹乱物質は,母体を経由し胎子へ移行することがあり,その影響が危惧されている。本研究は,多数存在する内分泌撹乱物質の中でも,生体への影響が指摘されているCo-PCBs(PCB126: 3,3',4,4',5-pentachlorobiphenyl)について,子宮内暴露に伴うマウス胎子遺伝子に及ぼす影響や,次世代マウスの発育と行動に及ぼす影響について調べた。10〜12週齢のMutaMouse(大腸菌lacZ遺伝子をトランスジェニックしたマウス)の雌雄を交配させ,腟栓が確認された日を妊娠0日目とし,妊娠10日目の母体に,コーンオイルに溶かしたPCB126を500μg/kg単回経口投与した。また,対照群には,溶媒を投与した。妊娠18日目に一部の母マウスを安楽死させ,帝王切開にて胎子を摘出した。摘出した胎子は,体重を測定し,肛門生殖結節間距離を測定した後,外表奇形の有無を確認した。胎子は低温麻酔により安楽死させ,液体窒素にて凍結保存した。その後,胎子からDNAを抽出し,その遺伝子突然変異頻度について調べた。また,10〜12週齢のC57BLマウスを用い,交配後,同様に妊娠10日目の母体に,実験群にはPCB126を500μg/kg暴露し,対照群には,溶媒を投与した。その後,自然分娩させ,新生子は母マウスに哺育させた。次世代マウスは,膣開口日を観察するとともに,正向反射テスト,遊泳テスト,ステップスルー型受動的回避テスト,オープンフィールドテストや夜間行動量テストなど,成長過程における行動学的観察を行った。雌については,性周期がその行動に影響するため観察しなかった。PCB126の子宮内暴露により,胎子の死亡率は増加し,口蓋裂の発生が観察された。また,雄胎子の肛門生殖結節間距離は,対照群のそれに比べて有意に減少していたが,雌胎子の肛門生殖結節間距離は両群の間に差は認められなかった。口蓋裂が観察された胎子から抽出したDNAの遺伝子突然変異頻度は,対照群のそれとほぼ同様であった。一方,自然分娩後のPCB126に暴露された次世代マウスの膣開口は,対照群に比べて促進していた。離乳前の次世代マウスの正向反射テスト,遊泳テスト,ステップスルー型受動的回避テスト,オープンフィールドテストについては,対照群のそれと同様であり,PCB126の影響は観察されなかった。しかし,性成熟に達した雄マウスでは,夜間行動量テストが対照群のそれに比べて有意に増加していた。本研究において,PCB126の子宮内暴露は,胎子に対して催奇形性を示したが,胎子遺伝子に対しては影響しないものと推察された。また,雄胎子については肛門生殖結節間距離が短縮し,雄胎子の雌性化が示唆された。生後の発育に関しては,雌では,膣開口が早期に観察され,性成熟の促進が認められた。一方,反射や運動能力にはPCB126の子宮内暴露による影響は認められなかったが,夜間における行動量の増加が観察され,PCB126は,次世代マウスの自発行動量に強い影響が現れることが判明した。以上の結果から,PCB126は母体を通じ,世代を越え,生殖系や一部の行動に影響を及ぼすものと考えられた。

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