締固め粘性土の動弾性定数と水分の関係について
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概要
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従来,土構造物の破壊は,土中の水分状態と何らかの係りを持っており,土の動力学的挙動に及ぼす水の影響を検討することは,工学的にたいへん重要な意義を有する問題である。ところが,この間題を土の動力学的特性との関連において検討した研究報告は極めて少ない。主な研究には,石本,飯田(1936〜1938)らの砂,砂質土および粘性土の動弾性定数(動ヤング率,動剛性率および動ポアソン比)と含水比(量)の関係を実験的に考察した例が最も著名であり,ほぼ定説化した感があった。この研究は,土の動弾性定数を共振法によって明らかにするという,当時としては画期的な研究であった。しかし,土の含水比の変化城が狭く,土中水分の形態としては,自由水の範囲に限定されると考えられる。その後の研究も,ほとんど石本,飯田の研究結果と基本的に変っていない。一般に土中水分の存在形態は,自由水だけでなく,土粒子のまわりや間ゲキ中には吸着水や毛管水などもあると考えられている。これらの水分が,土の動力学的特性(動弾性定数)に影響を及ぼさないはずがない。しかし,土中水分の状態を吸着水の範囲まで拡大して,土の動力学的特性を考察した研究は皆無といってよい。また,現在,設計上必要な締固め粘性土の動弾性定数の値の決定にも様々な振動試験法があり,おのおの一長一短を有している。ところが,各振動試験法間の比較検討を,振動数,拘束圧,振動ヒズミレベルおよび粘性土の減衰定数などの動弾性定数に及ぼす影響を考慮して研究した例も極めて少ない。以上の点に留意して本研究では,三種の室内振動実験により締固め粘性土の低含水比から高含水比に至る土の弾性ヒズミレベル(10^<-5>〜10^<-4>)内の動力学的挙動を中心として検討した。土中水分の動弾性定数(動ヤング率と動剛性率)に及ぼす影響については,とくに動的分野の研究にはない新たな土中水分表示法(等価水膜厚さ)を導入して検討したところ,いくつかの新知見を得るとともに,土の動弾性定数に及ぼす土中水分の影響についてはほぼ統一的に論じることが可能となった。その他,つぎに示すような広範囲にわたる項目について研究を行なった。1)超音波パルス法と縦共振法との間に生じている供試土中の縦波伝ぱ速度(Vlu,Vlr)の高飽和度の場介の違いを,伝ぱ波長λと供試体直径φとの比(φ/λ0)を用いて考察し,その修正を行なった。その結果,含水比に対するVlu,Vlrとの間の傾向差がなくなることを明らかにした。2)含水比とともに土の状態を表わす因子として間ゲキ比(乾燥密度)を選び,間ゲキ比の動弾性定数に及ぼす影響を検討し,超音波パルス法においても既知の結果と変らないことを示した。3)振動三軸試験機を用いて,締固め粘性土の動ヤング率,動剛性率の振動数,拘束圧および振動ヒズミ依存性などの有無を検討し,既存の研究結果について,いくつかの修正を提案した。さらに,超音波パルス法および共振法との比較検討も行なった。4)弾性ヒズミレベルの室内振動試験法(超音波パルス法)の意義および室内試験の結果を原位置の計測値にどのように対応させることができるかという点についても検討した。また,超音波パルス法と共振法の比較検討も行なった。5)土の動弾性定数と静弾性定数,強度との比較検討を行ない,土質力学の分野では極めて少ない粘性土の静(力学)的定数による勤(力学)的定数の推定が可能であることを示した。6)その他,計測の際に生じる各振動試験法のいくつかの短所を補う方法を開発した。さらに,粘弾性体の動ヤング率推定式が,高圧静的締固め粘性土供試体の動ヤング率を決定する上で十分な精度を有することを実験的に確めるとともに,共振法における減衰定数および横方向慣性力の動弾性定数に及ぼす影響についても二,三の知見を得た。主要な知見については下記の通りである。I土中の伝ぱ速度および動弾性定数に及ぼす土中水分の状態緒言で述べたように,土中の伝ぱ速度および動弾性定数に及ぼす含水状態の影響に関する既往の知見として,大半,含水比の増加につれて伝ぱ速度,動弾性定数が,単純に減少すると考えられてきた。しかし,本研究のように土の乾燥密度γdを一定とし含水比Wiを変化させて行く方式では,Wiの増加につれて,土中の伝ぱ速度(超音波縦波伝ぱ速度Vlu,共振法縦振動伝ぱ速度Vlrおよび超音波横波伝ぱ速度Vtu)およびおのおのの伝ぱ速度から求められる土の動ヤング率(EDU,EDR)と動剛性率(GDU)は,おおむね三つの変化領域を示すことが明らかになった。これは,1.含水比の増加につれてEDU,GDU,EDR,Vlu,VlrおよびVtuが増加する領域(第I領域)2.含水比の増加につれてEDU,GDU,EDR,Vlu,VlrおよびVtuが減少する領域(第II領域)および3.飽和度Srが100%に近づくにつれて,Vluのみが急激に増加する領域(第III領域)である。第I領域と第第II領域の境界付近が,変曲点含水比となる。しかしながら,以上三つの変化を既存の土中水分表示(重量的)法によって,統一的に考察することはおよそ不可能であるから,新たに土中水分表示法として,土粒子のまわりの水分および間ゲキ中の水分を等価水膜厚さD(Wi/S.S)で表現するパラメータを導入した。この方法によると土の水分状態が,土中の伝ぱ速度および動弾性定数に及ぼす影響を極めて合理的に考察することができた。まず,土の種類にかかわらず第I領域は,D=0AからD=30〜50Aの範囲にあり,この範囲の水膜厚さについては,Terzaghi(1948),Roosenqvist(1965)らによると吸着水に相当し,物理的には固体ないし半同体的な水分とされている。これは,現在,最も一般的な考え方である。したがって,この領域の土中水分は,見掛け上,土粒子のまわりに吸着した水分が土粒子径を増加させることにより,土粒子間距離を縮め,それが見掛け上密度増加につながり,EDU,EDR,GDU,Vlu,Vlr,およびVtuを増加させるものと考えられる。なお,この領域では,基本的な特性上水分にはほとんど影響されないと考えられている横波伝ぱ速度Vtuも増加していることから,この領域の水分については,前述の考察が妥当なものであるといえよう。第II領域は,既知の研究結果に類似しており,土中水分の自由水的特性が強く作用し,その粘性効果によって土の弾性的性質が失われる領域と考えられる。つまり,第Iと第II領域の境界点付近が土中水分の特性変化点(D=30〜50Aで吸着水から自由水へ)になると解釈される。つぎに第III領域は,供試体が高飽和度の場合に,超音波縦波伝ぱ速度Vluにのみ,顕著な現象が見られた。これは,土の原位置弾性波縦波伝ぱ速度によく生じ,水中縦波伝ぱ速度(1500m/s)に近づくことは,Biot(1956)の多孔質飽和物体中の弾性波動理論によって定性的に推察されている。つまり第III領域は,土の含水状態によって見掛け上存在するものであり,土の本質的な力学的挙動を表現しているものではないと考えられる。この見掛けの縦波伝ぱ速度VluをBancroft(1941)の円筒供試体中の弾性波動理論およびKhazinとGoncharov(1975)らの分類を参考にして,超音波の波長λ0と供試体直径φとの比(φ/λ0)および動ポアソン比μdを用いて定量的に修正したところ,縦振動伝ぱ速度Vlrに類似してくることがわかった。これは,超音波パルス法では,寸法比(供試体長/直径)も影響するであろうが,振動数が大きくなるためλoが小さく,従ってφ/λ0が大きくなり,結局,供試体を半無限媒体として取り扱わなければならず,共振法との間に生じている数値的な差がなくなるか小さくなると考えられる。以上のことを総括的に述べると,土の動弾性定数,伝ぱ速度に関する土の含水状態の三つの変化領域を統一的に考察することが可能となるということである。しかるに,このような三つの領域は常に現われる訳ではないが,これらの関係を等価水膜厚さ,飽和度および乾燥密度との関係により推定できることを実験的に検証した。すなわち,ほぼつぎのように分類できることがわかった。1)D≦30〜50Aで,すでにSr≤eDot≥100%に達しているとき→第I領域(第III領域が重なる場合も想定されるが,この場合はγdがかなり大きくなり,動ポアソン比が極めて小さく,動ヤング率の値を修正しても大差はない。)2)D>30〜50Aで,Sr≤eDot≥100%に達するとき→第Iと第II領域(場合によっては第III領域も。)II超音波パルス法と共振法間の動ヤング率の差両試験法からえられた高飽和度における動ヤング率も伝ぱ速度の修正により,含水比に対する変化傾向に差がないことが分かった。しかし,動ヤング率の絶対値は,両試験法の結果を対比した場合,超音波パルス法から得られる結果の方が常に若干大きく表われる。なお,この試験法を実施する段階で,本研究の範囲では,音波速度の温度依存性が無視できることや,両試験法ともに弾性ヒズミレベル内にあることなどを確認してある。既存の研究結果から推察すると両試験法間には,10^2倍程度のヒズミレベル差があり,この差が,両試験法間の動ヤング率の値の差となる可能性がある。他に,両試験法間の動ヤング率に差を与える可能性を持つものに振動数の違いが考えられる。ところで,土をフォークト体と考えた場合,複素ヤング率E([numerical formula])は,振動数依存性のない真の動ヤング率Eと振動数依存性を有する粘性項ωη)とによって表わされ,振動数が大きくなるとω^2η^2が大きくなり,その結果,Eが大きくなるはずである。しかし,本研究で用いた超音波パルス法(振動数30KHz)および共振法(振動数約500Hz〜2000Hz)ともにω^2η^2が小さく,E≤eDot≥Eとして差し支えないことがわかった。また,振動三軸試験(0.05Hz〜5Hz)においても,土の動的定数の振動数依存性がほとんどないことがわかったので,両試験法間の動ヤング率の差は,振動ヒズミレベルの差と考えてよいだろう。なお,振動ヒズミの絶対値の決定には,本研究では独自の方法を開発し,振動時の最大変位を捉えることに成功した。IIIその他の考察振動三軸試験機を用いて土の動弾性定数に及ぼす1)拘束圧(0〜5kg/cm^2)2)振動数(0.05〜5Hz)3)振動ヒズミ(10^<-4>〜10^<-2>)などの影響や土の動的定数と静的定数との比較についても若干の知見を得た。1)振動三軸試験から得られる動ヤング率EDT,動剛性率GDTには,拘束圧σ3依存性があることがわかったが,既知の研究におけるσ3依存性に比べ,あまり顕著なものではなかった。これは,本研究で用いた供試体が,従来のものより相当固いものであったことによると考えられる。2)すでにIIで述べたように,土の動弾性定数の振動数依存性は,ないものと考えられる。しかし,振動数の増加につれてEDT,GDTが,増加および減少という全く対立する傾向を示す場合もあり,これは,既存の土の内部減衰機構(例えばIIで述べた複素ヤング率の粘性項)では説明できず,土の状態により粘性減衰(速度に比例した形の減衰)以外の土の内部減衰機構も存在する可能性を示唆しているように考えられる。3)EDT,GDTの振動ヒズミ依存性は,非常に大きく,振動ヒズミの増加につれてEDT,GDTが急激に減少するという既知の研究結果によく一致した。ところが,本研究結果では,一般に言われている土の弾性ヒズミ限界(10^<-4>)とそれ以上の振動ヒズミとにおいて,EDT,GDTが,ほとんど変化しない場合もあり,土の状態を十分考慮して,土の弾性ヒズミ限界を決定する必要があると考えられる。また同一供試体において,振動ヒズミレベルを近づけるならば,三つの振動実験法からの土の動ヤング率の値は,類似してくることがわかった。この点より,原位置の土の状態を室内実験により再現することができるならば,とくに一番簡単な超音波パルス法によっても原位置の土の動弾性定数を推定することができると考えられる。さらに,土の動弾性定数と静弾性定数(静弾性係数)および一軸強度との間には一定の関係を有することがわかり,様々な種類および状態における土の動的定数と静的定数とを比較することによって,両定数を関係づける実験式を作ることも可能であろう。以上のように静的締固め土の動力学的特性に及ぼす土中水分状態の影響を中心として,いくつかの新知見を得ることができた。しかしながら,土は様々な要因に支配されると考えられるので,その力学性ないし工学性を統一的に論じることは極めて困難である。様々な種類の土および状態を想定したより多くの動力学的特性に関するデータの集積が,さらに必要となろう。
- 1979-03-31
著者
-
Koyama Shuhei
Osaka Prefecture Univ. Osaka Jpn
-
Koyama Shuhei
Laboratory Of Land Development Engineering College Of Agriculture
-
小山 修平
Laboratory Of Land Development Engineering College Of Agriculture
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