織物のしわに関する研究(第3報) : 摩擦によるしわの変化
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
糊付け布の摩擦によるしわの変化を中心に,さらに摩擦に関連して硬さ・厚さ・糸密度の変化について比較検討した.試験布はCotton・Tetoron・Silkを,糊材料はC. M. C.・Starch・Dextrinを選んで,それぞれに1%と2%の濃度で糊付けしたものについて実験をした.摩擦はアムスラー式摩擦試験機を使用し,100回・300回・500回,1000回の摩擦を行なった.しわの評価はJIS(日本工業規格)・L1005の方法に準拠し,硬きは垂下法によって測定した.1)摩擦としわの関係・防しわ性摩擦回数100回までの間で防しわ性の上昇が急であり,100回と500回の間では上昇が緩慢になり,500回と1000回の間では反対に防しわ性の低下を示した.この理由は糊付けによって布地の硬さを増し,しわを生じやすくなるが,摩擦による糊の脱落のために摩擦の初期には防しわ性が上昇する.糊の脱落のあとさらに摩擦回数を重ねると布地が疲労し(弾力性を失い,仕事回復率が悪くなる)しわになりやすくなると考えられる.・造りしわ性摩擦回数300回と500回の間で減少し,500回と1000回の間では反対に造りしわ性が増大する.・しわの回復性除重後の経過時間5minでのしわの回復が急であり,5minと10minの間の回復は緩慢である.摩擦回数の増加にしたがってしわの回復はいくぶん悪くなる.摩擦の初期では造りしわ性が減少し,しわの回復が良いが摩擦回数を重ねると反対に造りしわ性が増し,しわの回復が悪くなるのは防しわ性で説明したように,糊の脱落と布地の疲労に関係している.・しわの方向性糊付けによってしわの方向性が減少するが摩擦を重ねると方向性が再現し大きくなる.この理由は糊付けにより布地の間隙(かんげき)を閉鎖し不織布に近い状態となり,しわの方向性に作用する要因が薄弱となるが,摩擦による糊の脱落のためにもとの織物としてのしわの方向性が再現するためである.以上4項目のしわに関する傾向を布地別・糊の種類別に比較すると,摩擦によるしわの変化の最も大きいのは,Tetoronに濃度2%のC. M. C.および濃度2%のStarchで糊付けしたものであり,変化の少ないのはTetoronにDextrinの糊付けをしたものである.これはC. M. C.は粘度が高くて糊の浸透が悪く,糊の付着が表面的であるために,またStarchはでん粉粒子が大きくて浸透が悪く布地表面の付着量が多いために摩擦による糊の脱落が多く,したがってしわの変化が著しいと考えられる.その点Dextrinはでん粉粒子が小さく可溶性であり,粘度もきわめて低いので糊が布地内部までよく浸透し摩擦による脱落が少ない.摩擦によるしわの変化がTetoronに著しいのは,吸水性が少ないので糊の浸透が悪く,糊の付着が表面的になり摩擦による糊の脱落が多いためである.以上のほかに特記すべき事項は,Silkの無糊布は摩擦による布地の疲労が激しく,防しわ性の低下が目立っているが,C. M. C.で糊付けしたものは摩擦回数の初期より1000回まで防しわ性の上昇が続いている.すなわちSilkにC. M. C.の糊付けをすることは,摩擦による布地の疲労防止にきわめて有効であることを証明している.これはSilkはFirament Yarnであるために摩擦によって糸寄りを生じ布腰が弱るが,粘度の高いC. M. C.で糊付けしたものは糸が固定されて糸寄りを防ぐためである.C. M. C.は粘度が高く糊の付着が表面的になるために摩擦の初期の糊の脱落が急であるが或る程度の脱落のあと,布地に粘着して残った糊は脱落が遅く摩擦回数が多くなったとき,他の糊材料より防しわ性の低下がきわめて少ない.2)摩擦と硬さ・厚さ・糸密度の関係摩擦回数が増加すると硬さ・厚さ・糸密度ともに減少するが,いずれも顕著な減少は見られない.硬さの減少はC. M. C.で糊付けしたものに比較的多く,他はきわめて少なく取り上げるほどの変化はなかった.厚さの減少はCottonにStarch・SilkにDextrinで糊付けしたものに多く見られた.この理由はCottonにStarchで糊付けしたものは摩擦係数が大きくなり摩粍しやすいためであり,Silkは糸の滑りが良くて糸寄りを生じ,糸密度が粗になり厚さが減少する.糸密度の変化はCotton・Tetoronには全く見られずSilkにきわめて顕著であった.特に縦方向の糸寄りが激しく,摩擦前の糸密度の半数以下となった.
- 島根県立大学短期大学部の論文
- 1963-12-10
島根県立大学短期大学部 | 論文
- 脂肪酸摂取法の違いによる食生活改善における有効性の差異について
- 山陰地方の戸建住宅における住様式
- 斐伊川流域における住宅の特性
- 健康学習と自己決定に基づく肥満予防プログラムの開発と評価
- 高林方朗『弥久毛乃道中』について : 解説と翻刻