織物のしわに関する研究(第2報) : 糊付けとしわの関係
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概要
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糊付け効果は洗浄性・汚染性・通気性・吸湿性など各方面より評価きれるが,アイロンかけによる整形効果を上げることは糊付けの重要な目的である.糊付けは布地に可塑(そ)性を与えて整形しやすくするが,逆に可塑性の増大は防しわ性の減少をきたす.今回は織物のしわに関する研究の一環として,糊付け仕上げが織物のしわに与える影響についての実験結果を報告する.本実験はCotton・Tetoron・Silk・Acetateに糊の種類別(Starch・Dextrin・C. M. C.),濃度別(0.1%・0.5%・1%・1.5%・2%)に糊付けをし,その防皺度をJIS(日本工業規格)・L1005の方法に準拠して測定した.その数値により糊付け布の防しわ性・造りしわ性・しわの回復性を検討し,さらに硬さ(垂下法による)と厚さを測定した.この結果を要約して糊材料の特質を知り,生地および糊付け目的に適応した仕上げをするための資料としたい.1)糊の種類別比較・C. M. C.粘度が高いために最もしわを造りやすく,また糊濃度の増大による糊付け布の防しわ性の低下も著しい.しわの回復性は糊濃度の低いときは他の糊材料より良好であるが糊濃度を増すと急に回復が悪くなり,しわの方向性も少なくなる。糊付けによる硬さの増加は最も大きく,糊濃度の増大による硬さの増加も目立っている.厚さの増加はStarchより少ない.・Dextrin粘度が最も低いために造りしわ性が最も少なく,糊濃度の増大による防しわ性の低下も他の糊材料よりも目立って少ない.しわの回復性は糊濃度0.1%のときはC. M. Cよりわずかに劣るが濃度0.5%以上では最もすぐれている.しわの方向性の減少は糊濃度の0.1%から2%までほとんど認められず無糊布のときの方向性がそのまま残っている.硬さの増加はきわめて少なく,厚さの増加は全く見られない.・Starch造りしわ性・硬さの変化はいずれもC. M. C.とDextrinの中間であるが,しわの回復性は低濃度から高濃度までいずれの場合も最も悪い.しわの方向はC. M. C.と同様に糊濃度が増すと失われる.糊付けによる厚さの増加は最も多い.2)糊の濃度によるしわの変化一般に糊濃度0.1%では造りしわ性・しわの回復性・硬さ・厚さ共に無糊布との差が少なく,糊の種類別の特色が顕著でない.糊濃度が増すにしたがって糊の影響が強く作用し,特に造りしわ性と硬さは糊濃度1.5%と2%の間で急に増大している.この傾向はSrarchとC. M. C.に著しくDextrinの増大はきわめて少ない.しわの回復性は糊濃度による差は少なく,むしろ繊維別の差が顕著である.しわの方向性は糊濃度2%になるとStarchとC. M. C.はほとんど認められなくなるが,Dextrinには多分にしわの方向性が残っている.3)布地別比較一般に糊濃度0.1%のときは糊の影響の布地別差はほとんど見られないが濃度1.5%〜2%になると糊の影響が顕著になる.濃度0.1%のときは弾力性の強いSilk・Tetoronが弾力性の弱いCotton・Acetateより造りしわがいくぶん少ない.Silkは高濃度になると造りしわ性の増加が他の繊維より目立っている.しわの回復は一般に除重後5minでめざましく,それ以後は緩慢になるがSilk・Tetoronはしわの回復速度は遅く除重後5minと10minの間でも相当な回復を示し,永久じわとして残る割合が少ない.しわの方向性の減少はTetoronが最も少なく糊の濃度・種類に関係なくいずれの場合も糊の影響を受けることがきわめて少ない.糊濃度の増加によってしわの方向性を失いやすいものはSilk・Acetateである.以上の要約より糊付け仕上げの実際的方法を述べると,厚いタオル地や木綿の厚地のカバーなどのように布地の中まで糊が浸透し布腰を硬くし厚みを加えたいときにはStarchの2%濃度で糊付けするのが良い.ワイシャツのカラー・カフスなどのように表地・芯(しん)地と布地の重り枚数の多いものには浸透性の最もすぐれたDextrjnを4%〜5%の濃度で使用するのが良い.SilkやAcetateのように光たくと柔軟性の布味を生かしたいときにはDextrin・C. M. C.で0.1%濃度の糊付けが適している.きらに付言すれば白生地の場合は造りしわが少なく,しわの回復がよく,柔軟仕上げとなるDextrinが最適であるが,色と光たくを害さないためには透明な仕上げとなるC. M. C.の使用が適している.Acetateはでんぶん糊の吸着が悪いからDextrinよりC. M. C.の糊付けが効果的である.C. M. C.の使用にあたっては糊濃度1.5%と2%の間で急に造りしわ性が増し,また硬くなるから0.1%〜0.5%の濃度が安全である.Dextrinはその点,糊濃度を増しても柔軟仕上げとなり布味を失わない.しわの回復はSilkにDextrinをAcetateにC. M. C.を使用したときが最も良好である.TetoronはWash and Wear性の生地で糊付けを必要としないように考えられているが,Seam Puckeringを直すためのアイロンかけには糊付けをしたほうが効果的である.またTetoronの欠点として汚れやすいことが挙げられるが,汚染を防ぎ洗浄性を増すためには糊付けの必要がある.この場合,防汚染性・洗浄性に最もすぐれたC. M. C.の使用が適している.このときの糊濃度は0.5%〜1%の範囲が良い.
- 島根県立大学短期大学部の論文
- 1963-12-10
島根県立大学短期大学部 | 論文
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