マツタケの発生に関する生態学的研究 : 生長曲線とその解析
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概要
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1953年から1958年までの6か年間,京都府亀岡市上矢田において,1959年は京都市左京区岩倉において,秋期発生するマツタケの生長と環境要素を測定し,次の結果を得た.A.生長曲線について(1)マツタケが地上へ現れてからの生長曲線は,Robertsonの生長式,[numerical formula]に適合する.こゝに,y:時間xにおける長さ,A:生長の極限値,t:y=A/2であるときのx,k:生長係数(III・3).(2)生長曲線の時間xの基準は,ベールが完全に破れた日(開傘日)にとるのが適当である(III・4).(3)マツタケの生長曲線は,ツクリタケ,エノキタケ及びウシグソヒトヨのそれと基本的には同じである(VI.2).B.子実体形成の誘発について(1)各個体のt(上式参照)と開傘日dとの間には,どの年度でも強い回帰がある(IV・1・[1]).(2)各年度共,各個体のtとdは夫々正規分布をする(IV・1・[2]及び[4]).(3)(1)と(2)より,各個体の生長の原点(子実体形成の誘発日)から開傘日までの日数Tはtに比例し,開傘日dの分布はtの誤差分布に由来することになる(IV・1・[3]及び[4]).(4)(3)より,各年度共,子実体形成は試験地全体にわたって同時に誘発されたと結論される.この誘発は外部環境の刺激にもとずくものとみなされるから,誘発のあった日を刺激日(D_0)とする(IV・1・[4]).(5)(3)より,t=0ならばT=0,故に刺激日D_0はt-d回帰直線がt=0であるときのd=d_0から推定される(IV・2).(6)各年度のd_0は菌糸層の地温が始めて19℃附近にまで低下した日とよく対応するから,地温の下った日をD_0とする.菌糸を刺激して子実体形成を誘発する条件は,菌糸が約19℃又はそれ以下の温度に或る時間さらされることであると考えられる.これは有効刺激温度の上限である(IV・3).(7)1958年8月下旬から菌糸層を冷やして18°〜21℃に保ったところ,正常な子実体1本を発生させることが出来た.これは,(6)の結論が妥当であることを示す(IV・4).(8)刺激日より後に,菌糸層の最低地温が20℃以上へ昇ると菌糸の感応は失われる(IV.3).(9)刺激日が定まると,マツタケの生長又は収量に対する環境の影響を,マツタケの生長中と刺激日以前とに分けて考察できる(II).C.生長に影響する環境(1)マツタケ子実体の生長は,夜は昼よりも大きく階段状をなす.これは高湿の日の生長量が大きく,乾燥した日には小さいことゝ,実験的に環境湿度を高めると生長速度を増すことから,夜間の高湿度のためと考えられる(V・1及びIV・4).(2)高湿度と同時に暗黒にしても生長には影響が無かった.日々の温度変化に伴なう生長の変化も短時間の観測では認めにくい.しかし,発生シーズン中の平均環境の影響は生長曲線の定数の平均値に現われる(V).(3)刺激日より後の平均地温が高いと大きいマツタケができる(A_r).又,生長速度(α)も大きい.刺激日より後の降水量が多いと生長のポテンシャル(k)は増大する.しかし,同時にポテンシャルの消耗率(h)も大きくなる(V・2).(4)斜面にある茸輪のマツタケは尾根附近にある茸輪のものよりもtが小さく,最大長A_r及びαが大きい.この原因は尾根附近にくらべて土壌湿度が大きいためと考えられる(V・2).
- 1963-03-31