微生物の麹酸代謝に関する研究
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概要
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静置及び振盪両培養法による一次,二次培養に於ける燐酸代謝回転は,(1)まず菌体は培地中のオルソ燐酸を吸収し,その大部分をポリ燐酸の型に於て,一部はそのまま無機燐酸として貯蔵しついでこれを用いて麹酸生成ならびに二次的基質としての麹酸の分解に用い,(2)二次培養に於てはすでに一次培養に於て貯蔵したポリ燐酸を用いて培地中の燐酸とは無関係に麹酸形成ならびに分解に利用するものであると考えられる.以上の実験結果よりエタノールから麹酸が生成される経路をつぎのように推定した.エタノールはまずアセトアルデヒドから酢酸になり,ついで活性酢酸を形成するためにacetate-activating enzymeまたはacetokinaseとtransacetylaseの両作用によってacetyl-CoAを形成する.砒酸により阻害されることは後者の経路を推定できる.このようにして生成したacetyl-CoAは縮合酵素の介在によってクエン酸になり,TCAサイクルに入る.モノフロロアセトアミド,亜砒酸,ジエチルマロン酸によってそれぞれ阻害されることはこのサイクルに入ったことを推定できる.また麹酸醗酵培地中にサイクル上の2,3の酸の存在を認めたことと,基質エタノールにこれらの酸を添加,培養すると2〜3倍量の麹酸が増加することからエタノールから麹酸になる経路として,エタノール→アセトアルデヒド→酢酸→TCAサイクル→逆解糖経路→C_6化合物→麹酸の経路を推定した.麹かび,Asp. oryzae var. globosus AA2を用いて麹酸の分解を振盪培養法と静置培養法の両方について観察してつぎのような結果を得た.(1)振盪培養法による麹酸の分解に対する燐酸の濃度の効果は,燐酸の濃度を増すと分解量は多い.このことはARNSTEIN等の静置培養法の結果と同じようである.最適水素イオン濃度は5〜6であり,分解産物の結果による酸価は増大せず,またインドフェノール価の増大もなかった.ワールブルグ法による検圧実験はR.Q.=1であった.(2)振盪培養分解法および麹酸分解に対する阻害剤の効果は窒化ソーダ,2,4-ジニトロフェノール及びα,α′-ジビリジルが完全に阻害し,またその効果の余り著るしくないモノフロロアセトアミド,砒酸塩,亜砒酸塩等を使用した場合にグライコール酸の呈色反応が著るしく,またグライコール酸を基質とした場合これらの阻害剤の挙動もこれに類似していた.(3)静置培養分解法による分解生産物としてギ酸,グライコール酸,蓚酸,コハク酸及びクエン酸の各酸類を認め,なお未知の酸2種とまた第2鉄塩による呈色物質として麹酸以外2種類を認めた.ワールブルグ検圧計を用いK-1菌による麹酸の酸化的分解に対する種々な条件を検討してつぎのような結果を得た.(1)麹酸々化の最適燐酸塩緩衝液の濃度はM/5(最終濃度)である.(2)麹酸の酸化的分解には燐酸が必要である.(2)麹酸々化の最適水素イオン濃度は7〜7.8であるが9.0でも著るしい相異はなかった.(4)麹酸々化の最適基質濃度は0.0033〜0.0066Mである.(5)麹酸の酸化的分解は適応酵素系と考えられる.(6)1Mの麹酸を完全分解することによって2.60〜2.62Mの酸素を吸収し,また2時間の分解によって3.1〜3.5Mの炭酸ガスを排出し,このときのR.Q.は0.84である.(7)麹酸の酸化はメチレンブルーの存在で嫌気的に分解されることが推定できる.なお嫌気的酸化に対する二,三の影響を検討した.(8)各種金属イオンのうちFe^<++>,Ca^<++>, Mg^<++>イオンが促進的作用を示し,Fe^<+++>, Ni^<++>, Co^<++>, Mn^<++>, Zn^<++>等のイオンは阻害作用を示した.この阻害作用は金属イオンと麹酸のchelate complex形成による麹酸の不溶性によるものでなく,重金属イオン本来の阻害作用によるものである.(9)麹酸の酸化的分解に対する各種の阻害剤のうち,モノヨード酢酸,亜砒酸,ヒドロキシルアミン塩酸塩,p-chloromercuribenzoic acid,マロン酸,シアンカリ,窒化ソーダ,2,4-ジニトロフエノール,α, α′-ジピリジルが阻害作用を示した.K-1菌の生育培養ブロスからコメン酸,d-ガラクツロン酸,コハク酸,フマール酸をそれぞれペーパークロマトグラム上に認め,d-ガラクツロン酸をフェニールオサゾンのフェニールヒドラジン塩として結晶状に得ることができ,標品d-ガラクツロン酸のフェニールオサゾンのフェニールヒドラジン塩との混融試験,赤外線吸収曲線及び遊離酸の0.25N苛性ソーダ液の紫外線吸収曲線からd-ガラクツロン酸であることを確認した.これら検討して得られた分解生産物より麹酸の分解経路をウロン酸の細菌による分解経路より類推してつぎのように推定した.kojic acid→(comenaldehyde)→comenic acid.→d-galacturonic acid→d-tagaturonic acid→succinic acid→fumaric acid
- 1962-03-31