北太平洋における鉄散布実験 : プロジェクトの立ち上げと成果(<特集3>生態系科学における大規模野外操作実験)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
海洋では光環境が良いにもかかわらず栄養塩が高濃度で残存する海域があり、このような海域では微量栄養素である鉄が不足していることが近年提唱された。海洋における鉄欠乏仮説を検証するため、東西亜寒帯太平洋において鉄添加実験が行われた(西部:SEEDS、東部:SERIES)。鉄と水塊を標識する不活性気体、六フッ化イオウを64-80km^2の海域に加え、13-26日間の生物・化学的応答を水塊追跡しながら観測した。2001年に西部亜寒帯太平洋で行われたSEEDSにおいては鉄添加により顕著な光合成活性の増加が観察され、混合層内のクロロフィル濃度は初期値および非散布域の16倍に達した。この顕著な植物プランクトンの増加は、他の海域で行われた実験より表層混合層深度が浅く光環境が良好であったことに加え、成長速度の速い中心目珪藻が増加したことが主な要因と考えられた。藻類の増殖は栄養塩濃度と二酸化炭素分圧の顕著な低下を伴ったが、散布から13日目までの沈降粒子束は積算光合成量の12.6%にとどまった。すなわち固定された炭素の大部分は粒子態として混合層内に留まった。これらの事実は太平洋においても鉄が植物プランクトンの増殖を制限していることを明らかにしたが、固定された炭素の行方を解明するにはより期間の長い実験が必要であることを示唆した。東部亜寒帯太平洋で行ったSERIESはカナダとの共同研究であり、我々は実験の後半を観測した。実験期間は大きく2つに分けることができ、前半は低い植物生物量とプレミネシオ藻類の優占、後半は高い植物生物量と珪藻の優占で特徴づけられた。SEEDSに比べ、SERIESでは植物プランクトンの増加は遅く、最大値も低くとどまったが、鉄散布海域で非散布域に比べ有意に大きい沈降粒子束を観察した。しかし、沈降量は光合成によって表層に蓄積した有機物量の20%程度であり、多くの部分は表層で摂餌や分解を受けていることが明らかとなった。本稿では鉄散布実験のような中規模生態系操作実験の利点と問題点を議論する。
- 2005-12-25
著者
関連論文
- 南極ロス海域での海氷融解期の植物プランクトン群集動態
- 熱帯・亜熱帯貧栄養海域における新生産の評価
- 浜名湖本湖における河川からの栄養塩負荷量と湖北部底層水の水質の長期的変化
- "The paradox of the plankton"とプランクトン群集の種多様性(総説)^1
- 海洋における鉄の存在状態 (総特集 現代海洋化学・2) -- (3章 海洋表層の生物地球化学)
- 北太平洋における鉄散布実験 : プロジェクトの立ち上げと成果(生態系科学における大規模野外操作実験)
- SA-1 海産窒素固定生物の生態研究(Nitrogen Network-最新の実験・解析方法から新しい研究の切り口まで-, シンポジウム)
- 生物ケイ酸の溶解度と溶解速度について
- 鉄による海洋一次生産の制御機構(平成18年度水産学進歩賞)
- 鉄供給による植物プランクトンの栄養塩利用の制御
- 内湾域におけるN・P・Si循環の人為的擾乱と一次生産の変質に関する研究
- 北太平洋亜寒帯域における現場鉄添加実験--PICES-IFEPにおける国際共同研究計画 (総特集 海洋生物生産の加速と海洋大気)
- フィールドステーションの紹介 : 親潮モニタリング観測ライン(A-ライン)(野外研究サイトから(6))
- 衛星データを用いた海洋一次生産見積もりのための日本近海Sea-truthデータの集積 (特集:地球の炭素循環と一次生産)