瀬戸内海の生態系解析における有機物質フローの指標としての炭素・窒素安定同位体比
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概要
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瀬戸内海における有機物および一次生産者の炭素・窒素安定同位体比分布を、海域特性の異なる4海域に分けて概括し、安定同位体を用いた有機物質フロー解析の枠組みを提示した。表層水中に含まれる懸濁態有機物や堆積物中有機物の安定同位体比は、炭素・窒素とも大阪湾奥部で低くなる傾向があるのに対し、大阪湾中西部、広島湾および安芸灘では、そのような傾向は認められていない。大阪湾奥部には淀川などから大量の河川水が流入するため、δ^<13>C、δ^<15>N共に低い陸成有機物が流入・堆積していることが示唆されている。また、δ^<15>Nについては、富栄養化した湾奥部で藻類が無機態窒素の一部を同化する際の同位体分別によって、堆積物中有機物の値が低下する機構の存在も示唆されている。大規模なアマモ場が形成される三津口湾(内湾)の堆積物中有機物の安定同位体比は、アマモ場の内部でδ^<13>Cが高くなり、δ^<15>Nが低くなる傾向にある。アマモ場内部でδ^<13>Cが高かったのは、アマモとその葉面付着藻類が枯死してアマモ場内部に堆積したためであるものと推察されている。また、アマモ場内部でδ^<15>Nが低かったのは、小河川から陸成有機物が流入・堆積したことに起因している可能性が示唆される。付着微細藻類の指標である付着有機物は、瀬戸内海では概ね懸濁態有機物よりδ^<13>C値が高い。ただし、δ^<13>C、δ^<15>Nとも付着基盤の種類(石面、海草表面、貝殻表面)によって分布が異なる傾向にある。海藻類の安定同位体比分布は、δ^<13>Cの幅広い分布で特徴づけられる。広島湾では、湾央水域より都市化の進んだ湾奥水域で、海藻類の安定同位体比がδ^<13>C、δ^<15>Nとも上昇していることが報告されている。瀬戸内海の底生動物群集の多くは底生植物とδ^<13>C分布が重なっており、底生植物起源の有機物から多量の炭素供給を受けていることが示唆されている。
- 日本生態学会の論文
- 2005-08-31
著者
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