有機的貸借対照表論に関する一考察
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概要
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企業経営を取り巻く環境の著しい変化に、どのように対応していくか、またそのような環境変化に対応するために、会計上の具体的な手段はあるのか、という問題は、重要な問題である。特に、戦後という厳しい環境下における企業経営の存続という問題を考察する際に、重要な理論的根拠を提供するのがフリッツ・シュミットによって展開される有機的貸借対照表論である。この有機的貸借対照表論は、企業を経済という有機体における-細胞と捉え、経済環境と企業の有機的結びつきから経営の存続を図ろうとする。このためには、企業は生産性の変化や景気変動といった様々な環境変化に応じた相対的な立場の維持、つまり「相対的価値維持」を達成しなくてはならない、と彼は考える。よって、損益計算や財産計算、財産の費用化分の厳密な計算が重要であり、「財産価値変動勘定」を用いて、特に物価変動にさらされた非貨幣性資産の財産価値変動分による名目的な架空利益の計上を防ごうとするのである。また、貸借対照表上の項目が、各々、名目的価値を固持するか否か、という性質の違いを前提に、貸借対照表内の各項目間に、物価水準の変動の影響を相殺するような関係、すなわち「価値均衡」を作り出す。有機論の特徴は、第一に、経済環境と企業との有機的結合という視点、第二に財産価値変動勘定、第三に会計と景気変動との関連付け、また他の会計観 (静態論や動態論) と異なり、財産計算と損益計算の両方に重点をおく点にある。これは、損益計算・財産計算のいずれに重点をおくことが企業の実態開示に適するのかという問題を考えるうえで、もう一つの重要な視点となる。
- 2004-10-31