同一家族内における栄養摂取の類似性と母親の役割
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概要
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ひとびとの健康維持・増進のために,栄養教育はさまざまな場と機会でなされている.家庭において母親が果たす役割も一つの栄養教育として重要である.常識的には母親の栄養の摂り方がよければその娘もよいと言われているが,これを裏付ける科学的研究はほんの僅かしかなされていない.また,母親やその娘に影響をおよぼしたと考える祖母に関する栄養摂取に関する実態調査の研究報告も知られていない.そこで,本研究は愛知県内の某短期大学に在籍する女子学生とその母親および祖母を一組とした食事調査を実施し栄養素等摂取量の実態を疫学的に分析した.栄養素摂取全体の充足状況を測定するために,各栄養素の充足の度合いが考慮されている「新しい総合評価スコア」の導入を試みた.母親・娘・祖母の栄養素充足状況の関連性をみるために2つの異なった解析方法を用いた.いずれの方法も母親を基準として2群分けした.一つは(1)母親の総エネルギーの充足率が100%以上(充足群)と100%未満(不足群)に分けた.もう一つは(2)母親の総合評価スコアのランキングで上位群と下位群の2群に分けた.その際,母親とその娘および祖母はセットで同一の群とし,各世代について総合評価スコアを算出して解析した.その結果, (1)充足群・不足群との比較では,母親と娘間は,充足群の母親と娘が不足群のそれらより総合評価スコアが有意に高かった(p<0.001).また,母親と祖母間でも,充足群の母親と祖母が不足群のそれらよりそのスコアが有意に高かった(p<0.001).このように,母親の総合評価スコアが高ければその娘のスコアも高いことが判明した. (2)上位群・下位群との比較では,母親と娘間,および母親と祖母間でいずれも(1)と同様の結果が得られた.以上の2つの解析結果が一致していることから,栄養素の充足のためには母親がよければ娘もよいということが分かった.また,居住形態別でも総合評価スコアについて(1)と同様の解析を行い検討した.その結果,同居と別居を問わずに充足群の母親の総合評価スコアが高いときその娘および祖母のスコアが不足群のそれらよりも有意に高かった(p<0.05〜0.001).また,充足群の母親と娘および祖母では同居の方が別居のそれらよりスコアは高いのに,不足群では母親と娘および祖母では同居の方が別居のそれらよりスコアは低かった.すなわち栄養素の充足状況に居住形態が影響することが認められた.このような母子の関連性をさらに明確なものとするために,母親と娘の栄養素および食品群の摂取の関連性について,居住形態別にスピアマンの順位相関で検討した結果,充足・不足群ともに同居の母親と娘の方が別居のそれらよりも有意な相関係数を示す栄養素や食品群が数多くみられた.これは母親の栄養素および食品の摂取のあり方が娘に影響することを意味しているものと考えられる.なお,本稿は紙面上の制約から,スピアマンの順位相関に関する分析につき,結果と考察の叙述箇所を割愛した.以上の結果から,栄養素の充足のためには母親がよければ娘もよいということが明確になったこと,母親の栄養素および食品群の摂取のあり方が娘のそれらに影響すること,とりわけ同居の影響が大きいことが明確になった.娘と同居している母親の栄養素および食品群摂取のあり方の影響があることも示唆された.これらの知見は今後の家庭における栄養教育にとって大きな参考になると思われる.
- 名古屋文理大学の論文
- 2004-04-01
著者
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