K. 14 族ヘテロ原子化合物の構造と活性との相関に関する基礎的研究テーマ区分 3) その他
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
新しいタイプの5配位有機ゲルマニウム化合物の合成と構造Synthesis and structure of novel pentavalent organogermanium compounds(神奈川大理、杏林大保健、食品総合研、Hungarian Academy of Sciences)○竹内敬人、田中克己、田中恵子、亀山真由美、Alajos Kalman、Laszlo Parkanyi近年、高配位ケイ素化合物の研究がCorriuを始めとする多くの研究者によって報告されているが、それと比較すると、高配位ゲルマニウム化合物の報告例は少ない。また、報告された14族高配位化合物の多くは、シラトラン(ゲルマトラン)やトリアリールシラン(ゲルマン)誘導体のように、高配位が立体的に強制されている系である。我々はゲルマニウム原子を鍵とする新しいタイプのホストの構築を計画しているが、そこでは、ゲスト捕捉の際にゲルマニウムの高配位能が重要な役割を果たすと期待される。そこで、我々はゲルマニウム原子の高配位能についての基礎的なデータを系統的に集める目的で、一連の、立体的強制のないゲルマニウム化合物を合成し、どの様な構造的条件が高配位が可能になるかを検討することにした。この目的に最適と考えられたのはt-BuGe (SCH_2COOH)_3 (1)である。1はt-BuGeCl_3とHSCH2COOHとの反応で容易に合成可能であると予想された。しかし、得られた結晶は予期に反して分子式がC_8H_<14>O_4S_2Ge[(FBMS)(M+H)^+=310.9630; calcd for C_8H_<14>^<72>GeO_4S_2=310.9633]であり、1から1分子のSCH_2COOHが脱離したものと推定し、その構造をX線結晶解析で確認した。ORTEP図には以下の特徴が認められる。(1)ゲルマニウム原子は5配位であり、三角両錐構造をもっている。(2) Ge1-S1,G1-S2とGe1-C1結合はequatorialであるのに対し、Ge1-O1とGe1-O3結合はapicalでほぼ等しい長さ(ca. 2.04A; 標準的なGe-O共有結合(ca. 1.7-1.8A)より少し長い程度)を持つ。(3) Ge1、S1、S2、C1の4原子は同一平面にあり、Ge1を中心とする正三角形をつくる。(4) O1-Ge1-O3高配位結合はS1-S2-C1面に対してほとんど垂直である。ただし、それがつくる角度(166.7°)は理想的な三角両錐構造からの僅かなずれを示す。これらの事実から、我々が立体的な強制のない5配位化合物を得たことは確実である。実際、側鎖のS-CH_2結合は自由に回転でき、そうなれば-COOH基はゲルマニウムから遠く離れることが可能であり、1での高配位は、いわば自発的であるといえる。ただ、O1-C6結合長とO2-C6結合長がほとんど等しいため、Ge原子と配位したのがSCH_2COOH基のカルボニル酸素か、ヒドロキシル酸素かを確定する仕事が残った。解析のrefinementの結果、カルボキシル基水素原子は、隣接分子のと水素結合してつらなっており、カルボニル酸素原子がGe原子に配位していることが確定した。[figure] 5配位ケイ素化合物では、この種の三角両錐構造は、求核試薬とのS_N2型反応のモデルと認められている。5配位ゲルマニウム化合物についても同じことがいえるかどうかは興味深い問題である。1のメチレンプロトンのH-1 NMR、メチレン炭素、カルボニル炭素のC-13 NMRのいずれにおいても、観測されるシグナルはただ1本であり、溶液(CDCl_3)中では下に示すような早い平衡が起こっていることを示す。これはゲルマニウム原子上の分子内求核反応であり、固体構造はこの反応の中間の状態を観察していると考えられる。置換基の電子的、立体的性質が著しく異なる2の構造や性質がとどの程度異なるかが興味深い。2はPhGeCl_3とHSCH_2COOHとの反応で同様に合成された。そのX線結晶解析結果は、1と同様で、近似的な三角両錐構造であり、構造の面では両者に大きな差がなかった。また、溶液(DMSO-d_6)中でメチレンプロトン、メチレン炭素、カルボニル炭素がただ1種しか観測されない点も同じである。酸素をドナーとする他のゲルマニウム高配位化合物の合成も進行中である。
- 神奈川大学の論文
著者
-
田中 克己
神奈川大学総合理学研究所
-
田中 克己
神奈川大学総合研究所
-
竹内 敬人
理学部化学科
-
竹内 敬人
Department Of Chemistry Faculty Of Science Kanagawa University
関連論文
- C-4. 有機ゲルマニウム化合物の生理活性と構造との相関
- 高配位有機ゲルマニウム化合物の合成と構造
- K. 固体高分解能 Ge-73 NMR 法の開発と改良
- K. クルクミン類似化合物の構造と抗変異原性との相関に関する基礎的研究
- I. クルクミン類似化合物の構造と抗変異原性との相関に関する基礎的研究
- K. 14 族ヘテロ原子化合物の構造と活性との相関に関する基礎的研究テーマ区分 3) その他
- K. 14 族ヘテロ原子化合物の生理活性と構造の相関
- Electronic Properties of Anticonvulsant Amides. A C-13 Nuclear Magnetic Resonance Study of Phenylacetanilides
- 化学の道を目ざす世界の若者へ : 1987年ノーベル化学賞ジャン-マリー・レーン教授インタビュー
- 周期律の発見(どうしてそれがわかったの 3)
- 化学好きな世界の若者へ : 2000 年ノーベル化学賞白川英樹博士インタビュー
- Ge-73 NMR分光法による有機ゲルマニウム化合物の構造の研究(2004年度神奈川大学総合理学研究所助成共同研究)
- Ge-73 NMR分光法による有機ゲルマニウム化合物の構造の研究
- 科学者にとって「科学的」とは
- 有機化学工業と 20 世紀社会とのかかわり(化学が変えた 20 世紀)
- Ge-73NMR分光法による有機ゲルマニウム化合物の構造の研究(2002年度共同研究プロジェクト)
- 戦後の高校化学教育とCBA化学, ケムス化学の導入
- 年会を 4 年生の力で活性化しよう(化学教育 徒然草)
- 日本の化学教育から世界の化学教育へ-コンピュータが日本を世界の中心にする-
- 日本の化学教育から世界の化学教育へ -コンピュータが日本を世界の中心にする-
- NMR スペクトル(どうして分子の形がわかるのか 4)
- 日本における NMR のあゆみ
- 第7回アジア化学会議(7ACC'97)に是非ご参加を!
- 第 7 回アジア化学会議 : いまアジアが面白い(あんてな)
- 恩返しの時期が来た
- 国際交流関係 WG の活動(2. 国際化する日本の化学教育)(化学教育フォーラム)
- 科学者ではない人たちのための科学教育(化学教育 徒然草)
- 化学の道を目ざす世界の若者へ : 1987年ノーベル化学賞ジャン-マリー・レーン教授インタビュー(巻頭インタビュー)