組織の経済分析と社会分析 : Oliver E. WilliamsonのTCE分析の展開過程に即して(2)
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概要
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本稿は、TCE分析(Transaction Cost Economics;取引コストの経済学)の提唱者であるOliver E. Williamsonが1988年に著した"組織の経済学と社会学:対話の促進を求めて"と題する論文、ならびに、スエーデンの社会学者R. Swedbergが1990年に著した文献「経済学と社会学-境界の再定義」(<Swedbergによる、制度と組織の経済分析と社会分析を推進する、主要な研究者17名-O. E. Williamsonを含む-との間の、対話記録を含む研究文献>)を主軸として、それらに依拠しつつ、組織の経済分析と社会分析の接点にかかわる、研究上の問題と諸課題を追究している。さて、Swedberg (1990)によれば、第二次大戦後、経済学と社会学は、伝統的な分業体制の下、互いのドメインを侵犯することなく、没交渉的な研究活動を続けてきたが、そのような支配的な趨勢の中での例外が、米国Carnegie工科大学における、学際的な研究の動きであった。この動きは、後にCarnegie学派として知られるようになった、"行動科学的成果の援用による企業行動分析(behavioral economics)"をめざすそれであったが、この動きは、伝統的な新古典派の主潮流を変える迄には至らなかった(Swedberg, 1990)。しかし、Swedberg (1990)のそのような指摘にもかかわらず、典型的には1970年代以降における「産業組織論」(-新古典派経済学<価格理論>の応用領域-)にみられるように、当該領域は、それまでの動きを覆すほどの変貌を遂げるに至っているのであり、とりわけ、そのような動向に対して大きなインパクトを与えてきた研究者の一人としてOliver Eaton Williamson-Carnegie学派の第二世代を代表する研究者-をあげなくてはならない(Tirole, 1990)。ところで、Williamsonの研究テーマは、Carnegie学派の遺産である学際的な研究姿勢を継承して今日に至っているが、とりわけ、領域的には、経済、社会の他に、米国の旧制度派のCommons (1934)の流れを汲み、法の諸領域にも捗る広範な研究ドメインを視野に入れていることが特徴的である。そのような学際的なアプローチは、1970年代以降、彼が一貫してその推進を図ってきた、制度と組織のTCE (Transaction Cost Economics; 取引コスト経済)分析にみられるのであるが、本稿においては、就中、彼の手になるMarkets & Hierarchies (「市場と階層(組織)」,1975)以降の研究成果を収めた、Economic Institution of Capitalism (1985)とその展開途上で遭遇した、組織の社会分析との間の緊張関係とそのアウトプットに考察の焦点をあて、それらを、Williamsonが主導するTCE分析が生み出した研究上のポジティプな産物として捉える試みを行っている。即ち、Williamson (1988)は、上述した彼の1985年の研究成果に基付いて書かれた論文であるが、そこにおいて、彼は、彼の推進するTCE分析-組織の経済分析-と、組織の社会分析とのより一層の対話を求め、さらに、両者が、適度の緊張感をもつことにより、同じ現象-組織現象-を考察の対象とする研究者間の生産的な研究の発展に寄与することを指摘しており、本稿においては、それらに関しては、前稿の内容にも照らし合わせるとき、組織の経済分析と社会分析の間の協同作業にかかわる、実行可能解とみることができることを指摘している(Saito, 1998)。より具体的には、彼は、TCE分析における「経済性(economizing)」という視点の重要性、さらには、「分析単位(-ここでは、transaction-)」の識別とその選択の重要性を開示するとともに、それらを、行動仮説の重要性の認識-「限界合理性」-や、「(組織)過程分析の重要性-意図せざる結果を含む-」という、組織の社会分析が蓄積してきたアイデアとともに、それらを、両者が受容可能な共通項となり得ることを指摘している。それに対して、本稿は、これらも肯定的に受容可能とする見解に立つ。Williamson (1988)は、さらに、行動仮説として、最も議論の多い「機会主義(opportunism)」を分析の共通項として提示するが、本稿は、その項目は、組織経済分析においては、「道徳的陥穽」や「情報のホールドアップ」という概念とともに、既に市民権を得ている概念であるものの、組織の社会分析においては、受容しがたい項目であることを指摘している。(本稿においては、この問題については、さらに、TCE分析に代表される組織の経済分析の操作化の問題、あるいは、TCE分析と組織の社会分析との間の具体的な衝突の内容-機会主義、機能主義、あるいは、組織形態分析をめぐっての-にかかわる、Williamson (1988)の内容の、次稿以降における考察の中で明らかにする旨を指摘するにとどめている。)最後に、本稿は、Williamsonの提唱するTCE分析の組織論への新規参入と、1970年代半ばから今日に至る迄、それが多くの議論と研究上のアウトプットを生み出してきたことを肯定的に評価するとともに、そのような研究上の成果が、従来の組織論-組織の社会分析-に対するきわめて強い刺激となり、それらが、例えば、組織現象のユートピア的な解釈に対する再考を促すという結果も生みだしてきたことも看過すべきでないことも指摘している。Williamsonの提唱する組織のTCE分析が、組織の統一理論構築に向けて、解決すべき課題を抱えており、超えるべきそのハードルは必ずしも低くはないことも事実であるが、TCE分析が、これらの課題解決能力を十分に備えており(Swedberg, 1990)、それ故に、TCE分析は、肯定的に評価されるべきであることを指摘したい。なお、本稿は、Williamsonの次のような記述を引用して、結びとしている。"(組織社会学者が、経済性という経済分析的視点を受容することにより)、経済組織に対する両方の靴を揃えた-(注:社会分析のみならず経済分析を視野に入れること)-研究が、今、まさに開始されんとしている(1988, p.183)。"
- 北海道情報大学の論文
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