組織の経済分析と社会分析 : O. E. WilliamsonのTCE分析とその展開過程をめぐって(1)
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概要
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O. E. Williamson(米国UCバークレイ校教授)は、制度としての市場と企業組織を、取引コスト経済学(Transaction Cost Economics, TCE分析)的な視点から捉える試みを行う主要な論者として知られる。彼の提唱するこのアプローチは、彼自身もその影響下にあった、米国Carnegie学派の学際的な研究指向の精神(Cyert/March, 1963)を継承し、そのようなバックグラウンドから、次の四者を、その理論的なインプットとして吸収しつつ、成長を遂げてきた。すなわち、それらは、1)近代経済学における"市場の失敗の理論"、2) J. Commons (1934)の"制度派経済学-取引を分析の単位とすることを提唱-"、3) R. Coase (1937)の"企業本質論"、4) C. Barnard (1938)の"組織と誘発的適応(induced adaptation)の理論"、そして、5) F. Hayek (1945)の"市場と任意的適応(spontaneous adaptation)の理論"、である。また、このアプローチは、制度の分析にあたり、"合理性(rationality-正確には、限界合理性-bounded rationality)"と"能率(efficiency)"の概念に、ウエイトをおくアプローチとして知られる。Williamosonの主導するこのTCE分析は、今日、新制度派経済学(New Institutional Economics)の一分野として位置付けされるが、この内容に関しては、彼の著した「市場と階層(企業組織)」(Markets and Hierarchies, 1975)において、はじめて、その全体像が体系的に開示された。本稿は、以上のような特質を有する、WilliamsonのTCE分析の内容とその展開過程に関して、1)この研究内容が、"組織論への新規参入を意味する、画期的な研究"であるとの評価が、W. Ouchi(組織社会学者、米国UCLA教授)によりなされたこと(Ouchi, 1977)、そして、また、それを契機として、2)両者による当該領域における学際的な共同研究が実現したこと(1981)、さらに、3)そのような両者の共同研究に対する組織社会学者達からの批判と、4)それに対する筆者の反批判を開示している。(注: Ouchiは、後に、Williamsonの二分法的組織分類-市場と組織-に対して、社会学者DurkheimのClan Form(族縁的組織形態)を加え、また、Williamsonは、契約法の領域におけるI. Macneilの研究に依拠しつつ、ハイブリッドタイプの組織を追加して、今日に至っている。)以上の4点のうち、3)と4)に関して、本稿は、より具体的には、この共同研究の-組織経済学者と社会学者の間の-アウトプットに対する、組織社会学者による提言-<すなわち、"共同研究の過程において混入した、両者が依拠する相容れない概念にまで立ち返り、改めて、再度の分業と理論の検証を行うべき"との>-をとりあげ(Maitland et al., 1985)、それに対して、筆者は、この共同研究が契機となって生み出された、ポジティブなアウトプットを評価することの必要性を指摘している。即ち、筆者は、そのようなアウトプットとして、W. Ouchiとその協力者による、新しい「組織の経済学(1986)」の生成をあげ、さらには、この新しい領域、ならびに、当該領域のその後の展開過程の中から、最近における当該分野の経営戦略分析への貢献をとりあげ、それを踏まえた上で、Williamson/Ouchi両者のインターディシプリナリーな研究とその正の副産物を、積極的に評価すべきとの結論を導いている。
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