日本の新しい通商政策とその効果 : CGEモデルによる評価
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本稿は, 応用一般均衡 (Computable General Equilibrium : CGE) モデルを利用し, 日本を取り巻く新しい通商政策 (新時代経済連携協定あるいは自由貿易協定) の経済効果を定量的に分析したものである. 本稿の貢献は, 従来から行われている貿易自由化の効果だけでなく, 近年重要性が指摘されている国際生産要素移動 (直接投資と国際労働移動) の効果も考察している点にある. 分析に用いたモデルは Global Trade Analysis Project (GTAP) で広く用いられている標準モデルに1) 資本蓄積の内生化. 2) 外生的な国際生産要素移動 (直接投資と労働) という新たなモジュールを導入したものである. データセットにはGTAPの Version 4.0と基準年の1995年における各種データを併せて利用した. 分析のシナリオは, 日本とシンガポールで取り交わされた新時代経済連携協定を始めとした九通りの自由貿易協定であり, それぞれのシナリオには貿易自由化, 労働移動, 直接投資に伴う技術移転, そして一部では対外バランスの是正を織り込んだ. 分析の結果, 日本を中心とした東アジア地域における自由貿易協定は, 一般的に加盟国に利益を与えること, 逆に非加盟国については必ずしも利益が得られないことが明らかになった. また, 国際生産要素移動の効果は貿易自由化と比べて無視できないほど大きなことも確認された. さらに, 発生する経済厚生の総額とその分配は連携パターンによって異なることもわかった. これらの分析結果は, 多国間交渉と矛盾しないような戦略的な通商政策を検討することにも資するものである.
- 横浜国立大学の論文