中枢神経回路はなぜ再生しないのか
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概要
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大人の中枢神経が再生しない理由のひとつとして,一旦損傷された軸索が再び伸展しないことが古くから知られていた。研究の歴史は古く,前世紀初頭のCajalに遡る。彼はin vivoにおいて一度損傷された神経軸索が中枢神経の環境の中では再生できないことを示した。それから数十年を経た後,オリゴデンドロサイトに由来する神経突起伸展抑制因子の存在が示唆され,2000年になってその因子Nogoが単離された。現在では3つの神経突起再生阻害因子が固定されている。これらの蛋白が,いずれもNogo受容体(NgR)に結合することが報告された。しかし,NgRはGPIアンカー型蛋白で,細胞内ドメインを持たないため,シグナル伝達を担う受容体がNgRと結合することにより受容体複合を形成しているのではないかと考えられた。このシグナル伝達を担う受容体は思いがけないことに,ニューロトロフィンの受容体として知られているp75であった。p75は,ニューロトロフィン依存性に軸索の伸展を促進しているが,これとは逆に,再生阻害因子依存性に軸索伸展を阻害している。さらに神経細胞の軸索誘導を司る共通の細胞内シグナルとしてsmall GTPaseが重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。一連のシグナル伝達が同定され,分子ターゲットが得られた現在,中枢神経再生に向けた治療応用を視野にいれた研究が始まっている。
- 2004-04-01
著者
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山下 俊英
千葉大学大学院医学研究院神経生物学
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藤谷 昌司
千葉大学大学院医学研究院神経生物学
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羽田 克彦
千葉大学大学院医学研究院神経生物学
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山岸 覚
千葉大学大学院医学研究院
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山下 俊英
千葉大学大学院医学研究院神経科学研究部門神経生物学
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山岸 覚
千葉大 大学院医学研究院 神経生物学
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