異なる熱負荷条件における全面床吹出し置換空調システムの室内熱環境に関する実験研究
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
1.はじめに 全面床吹出置換空調方式は置換換気システムの一種である。換気効率が高いため、熱的快適性と省エネルギー性の点から注目されているが、温度成層を形成するために上下温度差が問題となる場合がある。垂直温度分布には室内熱負荷総量だけでなく熱源位置も影響を与えると考えられる。本研究では、OA化により内部負荷が種々の状態で配置されているオフィス空間に全面床吹出置換空調方式を適用した際の室内温熱環境および人体の熱的快適性を実験により評価することを目的としている。2.実験方法 実験は1996年の夏季に奥行き16m、幅6m、天井高さ2.7mのオフィス空間1スパン分を模擬した環境試験室にて行われた。内部チャンバー全面には通気性タイルカーペットと多孔OAフロアを敷設してあり、二重床内プレナムを通った空調空気はカーペット内部で面状に拡散し室内にほぼ均一に給気される。内部チャンバーからの排気は天井に配したダブルTバーの排気スリットを通して行う天井レタンチャンバー方式とした。また、窓の外側の外気室には夏季および冬季の外乱を再現するための空調システムおよび人工太陽灯が備わっている。室内温熱環境が定常に達した後述の14条件について1)移動測定カート、2)熱電対による温度分布、3)サーマルマネキンによる測定が行われた。移動測定カートは7項目の環境要素を同時計測可能なカートで、負荷分散条件については窓面からの距離1.0/1.5/3.0/4.5/6.0/9.0/12.0/15.Om、負荷集中条件については1.0/1.5/3.0/4.5/6.0/7.0/8.0/9.Omの地点にて測定を行った。また、室内上下温度分布は7地点、高さ8点にて全実験中ロガーにより記録された。サーマルマネキンによる皮膚温の測定は窓面を正面として椅座位にて3地点で行った。3.実験条件 室内負荷は照明負荷(100W×16)とアルミの筒で覆った電球を用いた室内模擬負荷(100W×10、20)により26W/m^2、36W/m^2とした。また、熱源の高さ(0.2、1.0、2.Om)、配置(分散、集中)、給気風量(1890、1350、810m^3/h)、ペリメータ負荷(無、有-夏季、冬季)を変化させることによって14条件について測定を行った。負荷の配置は、熱源分散時は模擬負荷を2列にわけて均等に配置し、集中時は窓面より8mの地点に集中させた。夏季を想定した条件では外気室温度を32℃、ガラス内側のブラインドが受ける放射熱量を580W/m^2とし、冬季は外気室温度を0℃とした。給気風量は一定とし、室内の代表点(出入り口側の壁面近く、高さ1.1m)で空気温度25.5℃となるように吹出し温度を自動制御した。4.結果 実験は36W/m^2、26W/m^2の2種類の内部負荷で行われたが、空調機の給気から室内排気までの空気温度差により算出された除去熱量はこの熱負荷とほぼ一致した。室内に給気される直前である室内側床表面に至るまでに全処理熱量の50〜60%が処理された。これは床全体が冷却されて床下への熱貫流が発生したためと考えられる。負荷を分散させ、高さを変化させた場合、上下温度分布より部屋全体を通じてほぼ一様に温度成層が広がっていることが分かった。また、負荷高さにより温度勾配の不連続点に変化が見られた。これは負荷位置にて暖められた温度の高い空気の層が上部に形成されるためである。すなわち熱負荷の高さが低いと居住域での上下温度差が大きくなり、逆に高いと温度差は小さくなる。室内負荷の増加によりいずれの条件についても上下温度差は大きくなったが、高さ0.lmと1.1m間の温度差は、最も上下温度分布がつくと予想される「36LS-7」で最大2.1℃となった以外は1.5℃以内であった。給気風量を減少させると上下温度差は大きくなり、810m^3/hのときには室内負荷を全て除去できずに全体の室温が上昇した。給気風量1890m^3/hにて熱負荷の高さが1.Om(M)、または2.Om(H)で分散している場合、床表面における無次元温度(Tf)がおよそ0.5となり、その点と室温制御用サーモスタットの置かれている高さ1.1mでの空気温度、天井吸込口での排気温度の3点がほぼ一直線上にあることがわかった。給気風量が減少すると給気温度が下がるために床面の無次元温度が相対的に高くなるが、同様に3点は一直線上であった。しかし、熱負荷高さが0.1m(L)と低い場合は室下部での温度上昇が激しいため直線にはならなかった。熱源を窓面より8mの地点に集中させた場合、集中点に近づくにつれ0.3〜0.5℃の室温上昇が見られたが、温度勾配は室全体を通してほぼ一定に保たれた。負荷集中点のそばにおける高さ0.1mと1.1m間の垂直温度差も1.0℃以内となった。空気の水平拡散性が大きく、水平方向の温度分布が室内全体を通してほぼ均一となったためと考えられる。熱源を分散させた場合でも室中央部にて若干の空気温度上昇が見られたが、これは本システムの給気方法の特性によるものであると考えられる。夏季条件では窓面近くの床が放射で暖められ、温度成層が乱れた。また、冬季条件では窓面近傍にてコールドドラフトの影響が見られたものの床上0.6m以上での温度成層は保たれていた。温熱快適性を保ちつつ置換換気の効果を得るには適切なペリメータ処理が必要であると考えられる。冬季条件を除くすべての条件について気流速度は0.1m/sを超えることはなかった。冬季条件では窓面近傍でコールドドラフトにより0.15m/sまでの気流速度の増加が見られたが、いずれの条件についてもISO-7730やASHRAE55-92の基準値以内に抑えられていた。代謝量1.1met、着衣量0.6cloとして計算により求めたPMVの値は夏季、冬季条件を除いて0から0.5の範囲内であった。さらに詳細な居住者の熱的快適性を調査するためにサーマルマネキンの皮膚温測定が行われた。周辺空気温度および放射の影響が皮膚温に大きな影響を与えることが確かめられた。5.結論 本方式では床パネルによる床冷却効果により居住域における温度勾配が小さくなった。熱源の高さが低いほど居住域における上下温度差が大きくなり、内部負荷の増加及び給気風量の減少も大きな温度差を生む結果となった。熱源を集中させると0.3〜0.5℃の空気温度上昇が見られたが温度勾配は全室内を通してほぼ一定に保たれていた。夏季条件では窓面近傍の床が暖められ、室全体の温度成層が乱れた。冬季条件では窓近傍にてコールドドラフトが確認されたが、高さ0.6m以上での温度成層は保たれていた。サーマルマネキンの皮膚温に周囲空気温度および放射の影響が強く見られた。
- 1998-05-30