An Allophonic Study of Japanese Vowels and Consonants
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概要
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音声学 (Phonetics) には、調音音声学、聴覚音声学、音響音声学、応用音声学などの研究分野がある。教育音声学、例えば英語教育音声学は応用音声学の一分野である。大西雅雄はこれら全てを包括する学問領域 (総合音声学) のために、スピーチョロジィ (Speechology) を確立した。(「学会要覧」日本音声学会創立60周年記念、1985) 音声研究の基本的な立場として、調音器官の動静、聴覚印象、音響実験での実証の3点を考える。調音音声学の目的としては、(1) 音声特徴の考察、(2) 変異種・構成異音・変異質音・方言音・diaphoneの発見、確認、(3) 音声変化のルールを確立、の3点を重要視する。各国語や方言に実在する母音の記述 (description) や比較研究には、母音基準として、D. Jones の Primary Cardinal Vowel (PCV) 及び Secondary Cardinal Vowel (SCV) を用いる。これは、伝統的な母音の記述方法である。日本語の音声特徴として、まず母音に6種の variants を認める。それらは、[i]、[e]、[a]、[o]、[〓]、[〓]である。母音図表では「ア」の音域は他の母音域と比べて広い。従ってその音価を表わすのは、[a] ではなくて [a] が適当。(大西雅雄)「ウ」には、両唇の円め (lip rounding) と突き出し (lip protruding) が無く、その音価を表わすのは、[u] ではなくて [〓] が適当。母音連続 (vowel sequence) については、2重母音 (diphthong) ではなく連母音 (vowel sequence) を認める。その種類はほぼ20個である。もし、シュワー (schwa) の [〓] を連母音の構成要素に加えるならば、連母音の組合せはもっと多くなる。日本語内で、[〓]、[〓]、[〓]、[〓] などにおける相互の「揺れ」は diaphone の問題である。母音は音声環境によって、あるいは、アクセントの位置によって無声化 [〓] して現れる。open vowel の [a] が [〓] に転化するよりも、close vowel の [i] や [〓] が [〓] や [〓] に変化する場合が非常に多い。例えば、「しきし」[〓ki〓]、「しかし」[〓ka〓] など。その他、方言による「揺れ」も多い。母音の無声化や有声化の実体 (開始および減衰) は Kymograph の声帯振動部 (vocal cords tracing) に拠って明らかである。半母音に、[j] と [ω] がある。[ω] には、両唇の円めは無く、英語などの [w] と区別される。母音比較特性は Sound Spectrograph のフォルマント計測に拠って明らかである。フォルマント図表は、P. Ladefoged (1975) のものがあるが、都築 (1991、1992) の母音図表 (Four Areas Graph) が最も新しい。Ladefoged の母音図表では、縦軸はF1、横軸はF2-F1を示す。M. Tsuzuki (1991, p.163) では、upper vertical axis はF1、lower vertical axis はF3、right horizontal axis はF2、そしてleft horizontal axis はF4をそれぞれ示す。日本語の子音特徴は、英語音に比べて唇歯音 (labio-dental) と歯茎音 (alveolar) が少ないが鼻音 (nasal) は多い。歯裏音 (dental) や歯舌音、歯間音 (denti-lingual, inter-dental) は無い。[Φ]に対立する有声音は理論上は [β] であるが、日本語では [b] である。従って、日本語では [Φ] と [β] には symmetry な関係はない。[Φ] と [b] の間でparallel pattern を形成する。[t] や [d] に retroflexion は生じない。fricativeと affricate の間で「混同と揺れ」がある。「ず」[z〓] と「づ」[dz〓]、「じ」[〓i] と「ぢ」[d〓i] を混同する。その条件は、(1) 音声位置環境 (circumstances)、(2) 話しの緩急 (speech pace)、(3) アクセントの位置 (stress location)、(4) 注意の有無 (attentiveness) などであるが、音声環境によって、破裂音と破擦音の使用が決まることが多い。例えば、「すずり」(an ink stone)、「つづり」(spelling)、「しじみ」(a corbicula)、「ちぢみ」(shrinkage) などでは、破裂音や破擦音が先行するそれぞれの無声音の離隔影響 (distant influence) で区別されることがある。(都築、1986b, 1986e) 語頭では、破擦音が生じ易い。一方、母音間などでは、摩擦音が調音上は容易である。「自治」(autonomy) の発音では、[〓it〓i]となり、[〓i] が [d〓i] となるのは、[t〓i] のanticipationである。「ずつ」の発音が [dz〓ts〓] となり、[z〓] が [dz〓] となるのも同様の理由に拠るものである。[t〓i] と [d〓i]、[〓i] と [〓i]、[ts〓] と [dz〓]、[s〓] と [z〓] などの間で、symmetrical な関係がある。口蓋化した [〓] と [〓] (palatal) は認めるが、口蓋化側音 (palatal lateral) の [〓] はない。「ラ」行子音に音声環境や語気 (emphasis) によって4種認める。(1) [1] (alveolar lateral), (2) [〓] (alveolar flap or tap) と (3) [〓] (retroflex flap)、そして (4) [r] (trill) である。軟口蓋ふるえ音 (uvula trill) の [R] は無い。[d] とこれら4種のラ行子音のvariantsとの音声上の混同は、都築 (1988) の Sound-Spectrograph に拠って比較される。Palatalization は Electro-palatogram に拠って最も明らかである。「ラ」行子音に、clear [1] やdark [f] は無いが、sound symbolism の観点からは、「リ」と「ル」に「明・暗」の音色を認める。「ガ」行子音に2種あり、有声軟口蓋破裂音と「カキクケコ」の鼻濁音である。鼻音に5種認める。(1) bilabial [m], (2) alveolar [n], (3) palatal [〓], (4) velar [〓], (5) uvular [N] である。反転音の [〓] (retroflex) は無い。[〓] と [N] は語頭には生じない。「ン」を「逆行的同化性成節鼻子音」(regressive-assimilated moraic nasal) と定義する。[N] を「口腔化成節鼻子音」(oralized moraic nasal) と定義する。結局、grapheme「ん」によって音声表記されているこれらの日本語鼻音はanticipationに拠って生ずる。 鼻音化した母音[〜]では、母音性 (vowelness) が勝り、[N] では鼻子音性 (nasality) が勝る。[N] には、「口蓋垂の後舌面への接触が不完全で、その結果、鼻腔と口腔の両方に呼気が流れ、しかも1モーラを持つ」と言う日本語特殊鼻音の特徴が現れる。但し、鼻腔流出が口腔流出に勝る。この逆の場合は母音の鼻音化である。鼻腔流出や口腔流出の状況や計測は、Kymograph や Flow-nasalitygraph (都築、1986f、1987b) に拠って明らかである。日本語の音節構造上、子音連続は原則的には無い。しかし、[m]+[m], [n]+[n], [〓]+[〓], [〓]+[〓] などのgeminateや[n]+[f], [n]+[t], [n]+[d], [m]+[p], [m]+[b], [〓]+[k], [ 〓]+[g] などの連続はある。但し、不完全破裂(incomplete plosion)、舌側面破裂 (lateral plosion)、鼻腔破裂 (nasal plosion) は無い。日本語には、[f], [v], [θ], [〓] は無いが、"フィルム" などで特に外来音を意識すれば、accidental ではあるが [f] も聞かれる。日本語の音節はモーラ特徴 (moraness)、即ち、uniformity of time を示す。その結果、rhythm は monotony である。強勢アクセントではなく、高低アクセントである。従って、unity stress などの原則も無い。有声・無声の対立が顕著である。(非促音を含む「雪原」と促音を含む「石鹸」の対立や連濁などに見られる。都築, 1987c) 日本語の音節構造は英語などと比べて単純である。CV構造を基本とする。但し、鼻音[N]、促音、長音なとが音節主音となりうる。なお、日本語の音声変化形については、金田一京助 ; 国語音韻論 (1963) に詳細な記述がある。本稿では、以上の日本語の母音や子音の音声特徴を踏まえ、それらの変異質音と音声環境について考察するものである。なお、本稿での音声表記に当たっては、「1記号1音価」(one symbol for one speech sound) を原則とした。
- 1996-01-31
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