因果性の多次元的属性についての5ヵ国の比較文化的研究(その2) : Kent大学の研究結果を中心に
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概要
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Kent大学は,5ヵ国(米国,南阿,日本,印度,ユーゴスラビア)にわたって,教員養成,社会科学,自然科学の学科専攻学生における学力達成度と親和関係などの成功と失敗に対し,4つの要因となる属性(能力,努力,課題及び運)を調査したものである。(1)親和関係については,次のような比較が得られた。1)能力については,インド,南アフリカ,米国が日本より高く,女性は何れの国においても男性よりも得点が高かった。2)努力については,女性は男性より高く,また失敗を努力に帰因する点では,インドが他の国より高かった。3)課題の属性に対しては,インド,南アフリカ,及び米国が高得点であった。しかし成功を課題に帰因するという点では,日本は最高点であった。また教育学専攻学者は社会科学専攻学者よりも得点が高かった。4)運の属性は,インド,南アフリカ,日本が高かく,しかもインドは最高得点であった。成功を運に帰因することでは日本は他の国々よりも得点が高いことが示唆された。学力達成度については,1)能力の属性に対しては,インドが高得点であった。女性は,いずれの国でも,特に失敗を能力に起因する点では,男性より高かった。2)努力の属性に対しては,インドは南アフリカより得点が高く成功を努力に帰因する点では,インドが米をのぞいたすべての国よりも高得点であった。3)成功を課題に帰因する点では,米国が日本より高かった,失敗を課題に帰因する点では,南アフリカがすべての国より高い点数を示した。4)運の属性に対しては,日本は高い得点であった。失敗を運に帰因することでは,インドがすべての他の国よりも高得点であった。又失敗を運に起因する点では,男性が女性よりも高い得点を示した。総じて学力達成度に関連して,女性は男性に比較して,失敗を努力と能力に帰因せしめていたのに反し,男性は失敗を運に帰因するとしていたことが,明らかにされた。女性にとっては,能力と努力とがいずれも内的属性であるため,失敗の恐れが一種の忍従の原因となっているかもしれない。親和関係に関しては,女性は失敗を能力に帰因する傾向がより多かったが,男性は失敗を運に帰因せしめていた。内面的で意図的,かつ可変的な努力に成功を帰因するという点で,女性が男性よりもはるかな有意な高い得点を示したからであった。日本が一貫して,比較対照国よりも,外面的な傾向を示す得点であった。米国の,個人主義と自力本願のプロテスタント的倫理は,外的な変数に基づいた新しい現実の倫理に,多少変容しつつあるようにみうけられる。日本にとって親和関係における成功に対し,課題の容易さの属性が高いということは,一対一の人間関係を重要視した,日本人の中にみられる高度の相互依存性を反映するものかも知れない。なお教育学専攻者は,外的な属性の点で,社会学専攻者よりも高かった。また教職課程の学生達は,社会科学専攻者と同じ程度には,親和関係における成功,失敗を能力に帰因するということはしないようである。(2)日本とカナダの比較 : 学業成績においては,日本の男子学生は能力において女子学生よりも評価が高い。一方カナダの学生は反対で女子学生が高い得点である。努力の項目では日本,カナダとも男子学生が女子学生より高い得点を示している。社会的文脈の項目においては両国とも男子学生が高いが,女子学生だけを比較するとカナダが高い得点である。運の項目においては,両国とも男子学生が女子学生より高い得点である。しかし両国の女子学生の比較においては日本はかなりまさっている。親和においては,能力の項目においては,日本,カナダとも男子学生が高い得点を占めている。努力の項目においては日本の場合は男子が著しく女子をうわまわった得点をあげている。一方カナダの場合は,日本と反対の現象で女子が男子をうわまわっている。これは文化的,生活習慣的な影響であろう。contextの項目においては日本の場合は男子学生が有意な差で女子学生を凌駕しているが,カナダの場合は,日本と反対の現象が見られる。運の項目においては,日本の男女がカナダの男女より高い得点をあげている。両国とも男子学生が女子学生よりも関心度が高いということができよう。この研究はアメリカのKent大学より東京家政学院大学平野専務宛の要請により協同研究を開始したのが一昨々年である。始め日本とアメリカの連絡が不充分なためそれぞれの研究方法で調査を実施した。日本における調査資料はKent大学の5大陸にわたる大規模な研究に協力したことになり筆者らの喜びとするところである。今回は,Kent大学での調査結果を掲載した。またの創案者の一人であるカナダのUniv. of WaterlooのDr.Lefcourt教授の結果と日本において筆者らの実施した結果を,カナダと同じ方法を用いて比較したものである。付記 : 資料整理には元本学短大講師(兼)厳島行雄氏にご助力を頂いた。感謝の意を表する。
- 東京家政学院大学の論文
- 1980-05-01
著者
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