『枕草子』のライバルは『史記』か?
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概要
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「清少納言(せいしょうなごん)」(生没年未詳)の『枕草子』は極めて独創的,個性的作品である。血筋社会であった平安時代において,個性を主張するということは空しい作業ではあったのだが,革命的行為であった。跋文の記述によれば,『枕草子』は『史記』をライバルとしたという解釈が成立する。『枕草子』のライバルを『史記』と仮定すると,『枕草子』に関する多くの謎が氷解する。例えば,「春はあけぼの」で始まる理由,三種類の文体で混成される理由,「枕にこそは侍らめ」の解釈等である。「司馬遷(しばせん)」(B.C.145〜B.C.86)は『史記』により,歴史の総合的記述の方法を「紀伝体(きでんたい)」という形で完成させた。清少納言は,これに対して,「随想的(るいじゅうてき)」章段,日記的章段,類聚的章段の三種類の文体で作品を混成し,結果的に,随筆という全く新しいジャンルを,11世紀の初頭という,世界史的に見て,飛び切り早い時期に,東洋の島国で創出してしまった。優れた文学作品が生み出されるには,三つの条件が必要である。一つ目は作者の資質,二つ目は優れた読者の存在,三つ目は執筆に駆り立てる大いなる「鬱屈(うっくつ)」である。『枕草子』の場合には,これらに加え,優秀なライバル,紫式部の存在があった。このような好条件が世界史的にも珍しい,新しい随筆というジャンルを創出し,傑作を生み出したのである。
- 2005-03-31
著者
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