地中海における古代医学に関する遺跡アスクレーピオス信仰とヒポクラテース(<特集>教授定年退職記念講演)
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概要
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医学校の標章としておなじみの「杖に絡みつく蛇」のデザインは何に由来し,何を意味するのだろうか?この疑問を解く鍵になると思われるのが,「サモスのヘルメース」と呼ばれる浮き彫りの蛇の像である.このヘルメースと呼ばれる巨大な蛇は岩の上に厳かに鎮座して人々の崇拝を受け,その足下に8の字形の頭部を持つ杖を置いている.古代ギリシアの神々はふつう人間の姿をしているが,神である徴しとしてそれぞれの神格を表す付属物と共に描かれる.ヘルメースの場合は神々の伝令使としての職分を示す杖を持ち旅人の服装をして,それらには天空を駈け巡るための翼が附けられている.本来この伝令使の杖には蛇が居ないはずであるが医学校の標章には2匹の蛇が絡みついている.じつはここにはヘルメースの別の職分である「死者の霊魂の導師」を表すための表象が混同されているのである.強い毒と強靭な生命力を持つ蛇は,地面の穴から地下へ自由に行き来して冥界の事情に通じ,生死の秘密を知る存在として古来畏怖と崇敬の対象となっていた.だから死者を蘇らせる能力がある神として崇拝されていたアスクレーピオスは神殿に蛇を住まわせ,蛇を侍らせた玉座に座り,巨大な蛇を巻き付かせた杖にもたれた姿で描かれている.むしろ神格化した蛇そのものがアスクレーピオスと呼ばれ崇拝されていると考える方が自然である.じっさい蛇とアスクレーピオスが同時に病人の治療にあたっている情景を描く奉納の浮き彫りがあるほどである.だから医学校の標章は蛇を軸にしてアスクレーピオスとヘルメースのイメージが混同され重ね合わされたものだろうと説明することができる.
- 2005-06-30
著者
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