ラテン・アメリカにおける漱石の受容と可能性
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概要
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メキシコ・アルゼンチンを中心に調査を行なった結果、中南米においても漱石文学が受け入れられ、様々な可能性が引き出されていることがわかった。特にアルゼンチンでは一九九四年から「TOKONOMA」という雑誌がだされ、日本文化の研究の一つとして漱石がとりあげられている。アマリア・サトウ、ビクトリーナ・トツカなどの日系人が翻訳を試みており、それをまとめているメキシコ大学院大学のイジェルモ教授の努力によって漱石の新しい評価も見い出されている。メキシコにおいては、シルビア・ノベーロ・ウルダニビア、ダニエル・サンシィジャーナをはじめとする若い研究者たちが翻訳に取り組み、漱石文学の理解を深めようとしている。一九九三年には、メキシコのアカプルコで開かれたアジア・アフリカ国際会議のシンポジュウムの席で、漱石が発表され、一九九四年から毎年アルゼンチンのブエノス・アイレスで続けられている日本文学のセミナーでも漱石が発表されている。『我輩は猫である』『坊ちゃん』などのユーモア小説にはあまり関心がいかないものの、『こころ』『それから』などの作品には心理的描写の面で高い評価が与えられ、時代性を超えた作家としての検討がなされている。どの国でも翻訳者の不足という問題をかかえながら、日本文化への興味はたかく、鴎外とともに、日本を代表する作家としての位置づけから作品群を理解しようという試みが続けられている。
- 埼玉短期大学の論文
- 1997-03-22