結晶集合物質の熱膨脹係數に就て
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概要
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航空機材料研究の目的は色々あるでせうけれども,「與へられた或材料を航空機の如何なる箇所に如何に利用するが適當か」と云ふことと,これの逆で「これこれの用途に對して充分なるものを作るにはどうするか」と云ふ事が最も重要なものであるうと思はれます。それで是等の研究を充分に推し進めますためには少くとも一つの方法として分子物理學的に各物質の内部構造を深く省察することが必要であつて,その結果それの物理的諸性質と内部構造の關係及びその諸性質同志の間に存在する關係を明かにすることが出來れば上述の目的を逹する上に大變役に立つことゝ考へられます。この小論文では上の方針で進みますために先づ結晶集合物質の熱膨脹係數が温度に對して如何に變るかといふことを最近の物質構造觀の上から論じて見たのであります。無機有機を問はず多くの物質は結晶からなります。單一な結晶よりなるものもありますが多くは結晶の集合體です。近時X線の研究に依つてこれらの結晶が原子的に規則正しい空間格子配列をなすところの構造をもつことが明かになつて來ました。ところが一方に於ては是等の原子間に働く力及びそれの安定平衡に對する問題が獨逸の「ボルン」「ランデ」等の人々によつて盛に研究されました。その結果その力は電氣的であることが明瞭になり且つ又この力は化學的親和性をあらはす力と同じ性質でるあことや彈性,光及び熱に對する諸性質の根原をなすものであることもわかつたのであります。それならば斯樣な力でむすびついておる結晶集合體の温度が上昇したならばどういふことが起るかといふに「アインスタイン」が初めて唱導したやうに各原子がそれぞれ自己固有な振動をなして全體としての「エネルギー」配布の状態が「プランク」の量子論で考へられる法則に順ふことは明かなことであります。この二つの事を基礎として(1)それに「グリュンアイゼン」の計算を加味して熱膨脹係數を導出して見ますとそれが分子力,原子的空間格子距離,原子配列に關する「マーデルング」常數及び常壓比熱と或關係式で結びつけられることがわかりました。その式をまづ二原子結晶體について考へ,「ハロゲン」鹽類に應用して膨脹係數を實驗と比較し可なりよく一致することを見ました。更に進んでこれらの鹽類が絶對零度から常温又は融解點までにどのくらい膨脹するものかの割合をしらべました。それから螢石に應用して各原子の荷電が電子の二倍づゝであることを確めました。(2)更に一原子結晶に對する式を導き曾て「デバイ」が結晶體を彈性的連續體として導いた式と比較し兩者がよく一致することを見ました。そして立方晶系に屬する(I)面中心立方空間格子配列(II)體中心立方空間格子配列(III)「ダイアモンド」型空間格子配列をなす固體元素物體の熱膨脹係數を算出して實驗と比較し「マーデルング」常數が各配列に對してよく一致することを見ました。(3)温度に對する該係數の變化を「アルミニューム」「銅」の二つについて計算し實驗と比較しました。(4)上述の考察から「ボール」の電子的原子構造觀より觀て金屬と非金屬物質の構造の差違をいくらか深く見ることが出來ると思ひます。
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