両白山地のトリカブト属植物 : 新亜種リョウハクトリカブトと「ハクサントリカブト」の実体について
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
著者はこれまでに, 赤石山脈などのトリカブト属植物において, 4倍種群構成種相互の putative hybrids の存在を報告した(KADOTA, 1981,1984 : 門田, 1982,1983)。これらの putative hybrids は, 花梗, 萼片の有毛性, そして上萼片や密弁の形などにその雑種性が現われることが明らかになっている。ハクサントリカブトは「加州白山」で採集された標本にもとづいて記載された種である(第3図)。このタイプ標本の花梗はほとんど無毛であるが, 中部より先端部にかけて粗面屈毛がまばらにはえるという特徴をもっている。したがって, タイプ個体は無毛の花梗と粗面屈毛が密生する花梗との中間的性質を示し, これらの花梗の有毛性で特徴付けられる2種の雑種起源である可能性が考えられた。そこで白山周辺での野外調査とハーバリウムでの標本調査の結果にもとづいて, この可能性を検証した。 その結果, 花梗の有毛性を中心として次の3型が認められた : Type S=花梗には全体に粗面屈毛がはえ, かぶとは円錐形, かぶとの嘴は長く水平方向に突出し, 密弁の舷部は太く短く, 距は細く短い;Type G=花梗は全く無毛で, かぶとは僧帽形, かぶとの嘴は短く, 密弁の舷部はやや細くかつ長く, 距は太く長い; Type I=花梗はほとんど無毛だが中部以上にまばらに粗面屈毛がはえ, かぶとや密弁の形は Type S Type G との中間的性質をもつ(第1図)。分類学的検討の結果, Type S はミヤマトリカブトと同定された。Type G は末記載の分類群でありかつタカネトリカブトの亜種とみなすことが適当であることが明らかになったので, その1新亜種リョウハクトリカブト Aconitum zigzag LEV. et VAN'T. subsp. ryohakuense として記載した(第4図)。分布の中心は両白山地にあり(第5図), 和名はこれによる。染色体数は 2n=32 である(第6図)。 ミヤマトリカブトとリョウハクトリカブトは花梗の有毛性だけではなく, 上萼片や密弁の形においても明瞭に区別された。そして Type I に属する個体は, これらの特徴のほか側片の有毛性についても中間的であることがわかり, ミヤマトリカブトとリョウハクトリカブトの雑種起源であると推定された。またハクサントリカブトのタイプ個体は明らかに Type I に属する(第2図)。したがってハクサントリカブトはこれら2つの4倍種間の自然雑種に与えられた名前であると結論付けられた。同じく白山で得られた個体にもとづく, ホクロクトリカブト(ホクリクトリカブト)についても同様な結果を得た。 白山の上部の集団はミヤマトリカブト, リョウハクトリカブトそしてハクサントリカブトの3つから構成されている(第7,8図)。両白山地でもより低所の集団はリョウハクトリカブトのみから成り, 標高の点で中位に位置する集団ではリョウハクトリカブトとハクサントリカブトから成ることが明らかになった。ミヤマトリカブト・リョウハクトリカブトがそれぞれ高山性・山地性であること, Type I に属する個体の花粉稔性はほぼ正常であることを考慮すると, 次のことが推定された;この2種の交雑は高山帯で起こり, それに由来するハクサントリカブトはより低所に分布域を拡大し, 現在も両親種との間で戻し交雑が起こっている。
- 1986-12-01
著者
関連論文
- 東北地方のアザミ : ナンブアザミを巡る問題点(東北地方の植物相の成り立ち,日本植物分類学会第8回仙台大会公開シンポジウム講演記録)
- 四国産アカショウマ類(ユキノシタ科チダケサシ属)
- アジア産トリカブト属植物(キンポウゲ科)の分類学的研究(13)ブータン中部からのつる性1新種を含むブータン産の種
- 広島県産ルリソウ属(ムラサキ科)の1新種,アキノハイルリソウ
- 青森県産コウモリソウ属(キク科)の1新種,ツガルコウモリ
- ミャンマー植物についての新知見(6)西部ビクトリア山のキンポウゲ科植物
- アジア産トウヒレン属(キク科)の分類学的研究(3)東北地方南部からの1新種,フボウトウヒレン
- 日本産アザミ属の分類学的研究XV.西日本産の4新種
- アザミ属の分類学的研究XIV.ハチジョウアザミについて
- 日本産アザミ属の分類学的研究XIII.東北地方からの3新種
- 日本産アザミ属の分類学的研究XII.新亜節オニアザミ亜節及びこれに属する1新種,ハチマンタイアザミ
- 日本産アザミ属の分類的研究XI.九州南部からの1新亜節とそれに属する2新種
- 日本産アザミ属植物(キク科)の分類学的研究X.フランシェとサヴァチェによって記載された種について
- 日本産アザミ属(キク科)の分類学的研究IX.ヤツガタケアザミの実体について
- 日本産アザミ属植物(キク科)の分類学的研究VIII.本州中部産の新種シドキヤマアザミ
- 日本産アザミ属植物(キク科)の分類学的研究 VII. : ヒッツキアザミとウスバアザミに関するノート, 及びイシヅチウスバアザミの実体について
- 日本産アザミ属植物(キク科)の分類学的研究 : VI. 北日本産2新種ヒダカアザミとザオウアザミ
- 日本産アザミ属(キク科)の分類学的研究 : V. 利尻島産の1新種リシリアザミとダキバヒメアザミの白花品種
- 日本産アザミ属(キク科)の分類学的研究 : III. 本州産の1新種エチゼンオニアザミとオニアザミのレクトタイプ選定
- 日本産アザミ属(キク科)の分類学的研究 II. : 本州中部産3新種と1新変種
- 日本産アザミ属の分類学的研究 : I. 本州中部の高山生種群-キンアザミ群
- シマアザミとその近縁種の分類と分布
- ヒダカトウヒレンの1新変種
- 宮崎県産ナベワリ属(ビャクブ科)の2新種
- アジア産トウヒレン属(キク科)の分類学的研究(2)青森県産の2新種
- 北海道産アキノキリンソウ属(キク科)の1新種,ソラチアオヤギバナ
- イチリンソウ属「狭義」(キンポウゲ科)の分類
- 北海道道北地方産キンポウゲ属(キンポウゲ科)の1新種,ソウヤキンポウゲ
- アジア産トウヒレン属(キク科)の分類学的研究(1)広島県帝釈台産の1新種,タイシャクトウヒレン
- 東北地方のアザミ : ナンブアザミを巡る問題点
- 80(P03) Aconitum japonicum Thunb. ex Murrayの種に関する化学的考察(ポスター発表の部)
- 阿武隈山を中山とする地域の自然史科学的総合研究
- 阿武隈山地東縁の相馬中村層群のジュラ紀砂岩
- 茨城県植物ノート(1)
- 富士山のトリカブト属植物(キンポウゲ科)について
- Taxonomic Studies of Cirsium (Asteraceae) in Japan (9) On the Entity of Cirsium yatsugatakense Nakai (関東平野および後背山地を中心とする地域の自然史科学的総合研究(2))
- 山形県産スイカズラ属の2種類
- 皇居吹上御苑の維管束植物
- アマミアワゴケ(アカネ科)の核形態及び核型に関する研究
- テリハアザミについて(キク科)
- 天山山脈固有の植物 Schmalhausenia nidulans (キク科) のフラボノイド
- 奄美諸島・トカラ列島の自然史科学的総合研究 : 実施の目的と昭和63年度調査研究の成果
- 国立科学博物館他による中国産植物及び菌類に関する日中共同調査の概要
- 北海道東部の自然史科学的総合研究
- トリカブト亜属植物の分子系統学的研究
- 雲南省及び中国東部における植物と菌類の調査地の植生
- 津軽海峡を中心とする地域の自然史科学的総合研究
- 北海道東部の自然史科学的総合研究実施の目的と平成4年度調査研究の成果
- 日本産アザミ属の1新種アブクマアザミ(キク科)
- 中国雲南省産のキンポウゲ属(キンポウゲ科)の1新種-Ranunculus meilixueshanicus KADOTA et T.L. MING
- 北海道産マンテマ属(ナデシコ科)の1新種トカチビランジ
- 日本産アザミ属6種のレクトタイプ選定と6新種
- 利尻島産キンバイソウ属(キンポウゲ科)の分類学上の地位
- 日本の高山性キンポウゲ属の分類
- 日本産アザミ属(キク科)の新種
- 日本産キンバイソウ属(キンポウゲ科)
- 両白山地のトリカブト属植物 : 新亜種リョウハクトリカブトと「ハクサントリカブト」の実体について
- 広島県産カラマツソウ属(キンポウゲ科)の1新種,シロカネカラマツ
- 北陸・山陰地域の自然史科学的総合研究
- アジア産トウヒレン属(キク科)の分類学的研究(5)北海道東部とサハリンからの2新種
- 岐阜県飛騨山地産トリカブト属の1新種
- 東北地方におけるトリカブト属トリカブト亜属植物(キソポウゲ科)の形態的変異と分布
- 赤石山脈産トリカブト属植物(キンポウゲ科)の分類学的研究
- 本州産オウレン属(キンポウゲ科)の1新種,キタヤマオウレン
- 形態的観察, PCR法及びLC/MS分析による育成牛シキミ中毒の診断
- 四国産ナベワリ属(ビャクブ科)の1新種,シコクナベワリ
- アジア産トリカブト属植物(キンポウゲ科)の分類学的研究(14)北海道産レイジンソウ亜属の4新種
- アジア産チダケサシ属植物の分類学的研究(1)対馬産の1新種,ツシマアカショウマ
- 津軽海峡を中心とする地域の自然史科学的総合研究
- 北海道東部の自然史科学的総合研究実施の目的と平成4年度調査研究の成果