富士山の苔類
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概要
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富士山の苔類についてはこれまでまったくその全容がつかまれていなかったが, 今回, 107種のものを明らかにすることが出来た。富士山における苔類のいちじるしい植生は主として北側の青木原に集中してみられ, ついで御殿場口の3∿4合目周辺に多く種類が認められる。いちじるしいのは, 好石灰岩性と目される種類がいくつかみられることであるが, 例えば Calycularia crispula, Acrobolbus ciliatus その他をあげることが出来る。これらの種類は日本国内では石灰岩ないしは石灰分を多く含む基岩の地域にのみ分布するもので, 青木原の溶岩流の上に他のものと共に生育している。この地域の苔類相を特徴づける今一つの点は, 西南日本ないしは東南アジア系統の種類が意外に多く侵入している点である。このようなものとして Cololejeunea shikokiana, Drepanolejeunea angustifolia, D.mono-phthalma, Heteroscyphus argutus, Lejeunea pallide-virens, Plagiochila trabeculata, Riccardia jackii, その他をあげることが出来る。これらの種類の大部分のものは, 日本では関東地方を分布の北限としているが, Drepanolejeunea monophthalma や Cololejeunea shikokiana, その他のように紀伊半島から富士山に飛び離れて分布するものもある。富士山の成立は日本の他の山岳の中でも比較的新しいが, 分布上注意すべきいくつかのものが見られる。この最も顕著なものが, ヒマラヤ系統のもので, 日本では関東地方から西の, いわゆる襲速紀に沿って分布が見られる。代表的なものが Plagiochilion mayebarae, Calycularia crispula 等である。富士山で特殊化の進んだ種と思われるものは Calypogeia fujisana で, 富士山五合目周辺にのみみられる。全般的に富士山の苔類は日本の亜高山地域の苔類相をよく示しているが, 上記した特殊なヒマラヤ系および東南アジア系のものを含んでいる。なお, 富士山の苔類についての植物地理学的な解折については別に稿を改めて論議する予定である。
- 国立科学博物館の論文
- 1981-12-01
著者
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