甲斐駒ケ岳及び仙丈岳のモジゴケ科地衣について
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概要
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1. Graphina alpestris ZAHLBR. 本種は日本と共通する稀種で, いずれも2,000m を越す高山にしか分布していない。日本ではこれ迄八ケ岳と瑞牆山にしか存在が報告されていなかったが, 今回北沢峠近くで多量にみつかった。 G. deserpens に酷似するが, ノルスチクチン酸を欠くことによって区別される。 2. Graphina inabensis (VAIN.) ZAHLBR. 本種は低山から高山に広く分布する日本固有種である。新熱帯地方に広く分布する G. incrustans 酷似するが, 果殻の唇部 (labia) が単なるさけ目状ではなく, 特有の堅い組織によって構成され, 成熟時も両唇が直立しないことによって区別される。 3. Graphina undulata MULL. AGR. 本種は前種の G. inabensis と似るが, 唇部がさらに発達し, 子器は地衣体上に高くもり上がり, 胞子も大きい。また本種は軟かい樹皮に着生したとき, 唇部と地衣体との接する部分 (thalline margin) にき裂を生じ, しばしば組織がくずれ, フィリッピン産の G. bilabiata に似て来るが, スチクチン酸を欠くことで区別できる。 4. Graphis parallela MULL. ARG. 本種は G. anfractuosa, G. cognata と酷似するが, 前者とは子器が曲がりくねらず, 胞子が大形であることによって区別され, 後者とはただ胞子の大きさによってのみ区別される。私はかって本種を G. anfractuosa のシノニムと考えが, 今回タイプと比較し別種であることを確認した。南アルプス産の標本は子器が多少短かく, 分枝する傾向があり, 子のう盤もときどき開くことなどタイプと多少異なる点もあるが, 子器が大きく裸出すること, 子器断面や胞子の大きさが一致することなどから G. parallela と断定した。 5. Graphis proserpens VAIN. 本種はニューカレドニア産の G. endoxantha, 中国産の G. rockii などと酷似している。前者は果殻内に多くの結晶を持つが, 後者は果殻直下にのみ結晶をもつ。これに対して G. proserpens は子器と接する地衣体中に多少存在する程度で全くこれを欠いている。また子器の突出程度でこれを区別することも報告されているが, この特徴は子器の成長にともなって変化する傾向があるのでよい区別点とは考えられない。 6. Graphis rikuzensis (VAIN.) NAKAN. 本種は日本の低地に広く分布する種で, G. scripta と外見は似るが, 果殻の違いで容易に区別できる。 7. Graphis scripta (L.) ACH. これ迄日本におけるこの種の本体ははっきりしていなかった。今回リンネの Lichen scriptus の標本をみる機会にめぐまれたので精査した結果として, 日本では主は針葉樹林帯にみられるものと一致していることがわかった。ただ日本の G. scripta は子器がやや突出する傾向があり, var. pulverulenta に近いこともわかった。このような標本はこれ迄 var. serpentina としてあつかわれていたが, この var. serpentina は子器がやや地衣体中に沈むことから区別する必要がある。
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