ストック化経済における年金問題(庭田範秋教授退任記念号)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
わが国では,経済のバブル化の時期をはさんで,経済のストック化が進行したとされる。ストック化の指標としては,(1)世帯ベースでは金融資産の年間収入に対する比率の上昇(2)加えて家計資産のうちでの相続遺産の増加(3)マクロ経済的には,国民経済計算における総資産の対国内総生産比の上昇,等が挙げられる。こうした現象の老後生活ないしは,老後の生活保障に対する影響は,従来から様々な視点より論じられている。その1つは,老後生活水準の現状認識に関わるものである。高齢者世帯の消費水準は全世帯平均に比べれば確かに低いものの,前者の平均資産保有額は後者に比べてはるかに大きく,その傾向は住宅・宅地資産で著しいというものである。こうした認識の上に立ち,なおかつ同居比率も高いことを考えると,公的施策としての老後保障政策すなわち公的年金制度の大幅な見直しを必要とするとの論者もいる。加えて,多額の保有資産を市場を通じて流動化させることで,それを積極的に生かすべきであるとの議論もある。というのも,"長生きのリスク"のために高齢者は常に余生のための貯蓄に励まざるをえず,過少消費・過剰貯蓄に陥りやすいからである。しかし,こうした方途には一部問題点も指摘されており,その点の検討が必要とされる。合わせてパターナリズムに基づく年金制度の意義と,相互扶助としての私的年金の機能を再確認すべきところであろう。もう1つの論点として,本来的に高齢者世帯間では,消費水準・貯蓄水準格差が大きいとされているが,経済のストック化がこれをさらに助長していることの問題がある。また,これは老後の生活保障を市場に委ねる際にも生じる問題である。こうしたことは,政策にとり不安定要因となろう。そこで老後の生活保障にとって,経済のストック化により生じる過度の資産格差を是正するために,税制面での改善を行うことには大きな意味がある。
- 慶應義塾大学の論文
- 1993-04-25
著者
関連論文
- 米山高生著, 『物語(エピソード)で読み解く リスクと保険入門』, 日本経済新聞出版社, 2008年12月
- インセンティブ報酬とその評価
- 現代家族の介護力と介護サービスの市場分析
- 食品業界における望ましい品質管理のあり方
- 米国中小企業における福利厚生の動向--雇用主提供医療保険を中心として
- 金融危機が私的年金に及ぼす影響--GIC契約を題材として
- 個人年金保険の需要動向について
- 論評 年金改革後の老後所得保証
- 論評 企業の福利厚生と企業価値
- 論評 世代間のリスク・シェアリング
- 保険事業における新ビジネス・モデル
- 年金制度における確定拠出年金の位置付け
- 企業内保険システムと雇用・人事戦略
- 労災保険の特殊性と財政の健全性
- 金融変革期における保険の技術革新
- 「私的年金のリスク構造と所得保障における役割」
- 団体生命保険・団体年金保険の資産蓄積効果
- 個人年金保険における危険分類の厚生効果
- 年金保険が資本深化に果たす役割
- 年金制度とパ-ソナル・ファイナンスの比較研究
- 共通論題テーマ「金融ビッグバン後のパーソナル・ファイナンス」(共通論題研究報告)
- ストック化経済における年金問題(庭田範秋教授退任記念号)
- 老後所得保障の総合政策 : もうひとつの一体改革
- 私的年金をめぐる業際競争と生命保険経営
- 米国年金プランの問題点と年金政策