顔面非対称が増悪した 1 症例の咀嚼筋機能分析
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概要
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顎顔面複合体の形態への機能的影響の本態を知ることは矯正治療上重要なことである.今回われわれは, 矯正治療中に顔面の非対称性が増悪した症例の成長に伴う形態変化と, 咀嚼筋機能との関連について考察した.症例は初診時年齢の女児で, 反対咬合を主訴として来院した.当初顔面の非対称はほとんどなかった.矯正治療中成長に伴う下顎の左方偏位の増悪を認めたため, 治療を中断して成長経過を観察した.正貌頭部X線規格写真の変化をみると, 12∿16歳にかけて上下顎, 特に下顎の左方偏位が著しかった.18歳時では上下顎歯列の正中のずれは6.5 mmであった.そこで18歳時, 左右側頭筋前部, 後部および咬筋の最大咬みしめ時の筋電図を4つの咬合位で採得し, 咀嚼筋活動の左右の平衡性を調べた.積分値は側頭筋前部では習慣性咬合位および上下顎歯列の間にバイトブロックを介在させたスプリント位において偏位側が非偏位側に比べ大きな値を示した.しかし側頭筋後部および咬筋ではすべての咬合位で非偏位側が大きな値を示した.咬みしめの強さの影響を可及的に除去し, 上下歯列の正中を一致させた正中位に対する相対値として表した規準化積分値では, すべての筋で咬合位の違いによる筋活動に大きな差を認めなかった.偏位側側頭筋では正中位に比較し相対的に活動が亢進し, 非偏位側側頭筋では低下していた.咬筋では左右ともにその活動は低下していた.周波数分析では側頭筋前部は上下歯列の正中を合わせることによって左右の周波数分布が一致する傾向にあったが, 咬筋はすべての咬合位で偏位側が高周波に偏り, 正中位においても平衡性の改善はわずかであった.以上のことより本症例の顎の側方偏位は, 側頭筋前部においては左右側の相対的な筋力の不均衡, 咬筋においては筋力に加えて筋収縮特性の左右の不均衡を伴っていた.これらの筋の不均衡が顎の偏位の原因と推定する明確な結論は得られなかったが両者は相互に強い関連があるものと考えられた.
- 日本矯正歯科学会の論文
著者
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名方 俊介
九州大学大学院歯学研究院口腔保健推進学講座
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名方 俊介
九州大学歯学部歯科矯正学講座
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原口 由美子
九州大学歯学部歯科矯正学教室
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渡邊 美恵子
九州大学歯学部歯科矯正学教室
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小宮 智恵子
九州大学歯学部歯科矯正学教室
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