Tacrine (9-aminoacridine) の家兎脳波に及ぼす影響ならびにその薬理作用について
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概要
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SHAW らによって, Tacrine (THA) がMorphine 桔抗作用を有していると報告されて以来, その薬理作用の性質が注目されるに至った. 最近 ST0NE らは, Morphine を癌患者に連続投与する時, THA を併用すると, Morphine の耐性および依存性が予防されると臨床報告している. 従って, 著者は, THA と Morphine の桔抗現象に興味を持ち, まず今回は, THA の中枢作用を脳波学的に検討し, さらにその薬理作用の性質について検索したところ, 次のような結果を得た. (1) 慢性電極植え込み家兎の脳波に及ぼす THA の影響を調べたが, THA は, 外部刺激によって招来されると同様の自発性脳波の賦活化を惹起した. 即ち THA の少量投与によって, 皮質脳波の Spindle burst をまじえた High voltage wave が, Low voltage fast wave に変化した. THA の投与量を増加すると, 皮質の Desynchronized patternは, さらに顕著となり, 皮質下の海馬, 視床, 尾状核等の諸核では, Irregular wave から, 4〜6 cps の Regular synchronous wave に変化した. その時の自発性脳波 Pattern の変動を, 周波数分析計によって分析すると, THA 投与によって, 皮質脳波の8 cps 以上の周波数帯域の増加が, また海馬, 尾状核では, 4〜8 cps 周波数帯域の若干の増加傾向が認められた. THA 投与後の脳波分析値の変化は, 皮質下諸核よりも, 皮質において顕著に認められた. 海馬刺激によって誘発される After-seizure discharges の閾値および Seizure discharge propagation に対して, THA は有意な影響を与えなかったが, Hippocampal after-seizure の持続時間延長を招来した. また THA は, 脳幹網様体刺激による覚醒反応を亢進し, 視床低頻度刺激による Recruiting response を抑制した. このような実験結果から, THA の中枢賦活作用が大脳皮質に著明に認められ,皮質が本薬物に対する感受性の高い事を示唆しているが, 特異的でなく, 中枢の広い範囲に作用部位があるものと推察される. その効果は, Anti-cholinesterase 剤や Acetylcholine の場合と類似し, THA は, Blood-brain barrier を通過する Eserine や Nonquaternary organophosphorus compounds 等の Anti-cholin-esterase 剤と, 同属に分類される. (2) THAは, マウス Methylhexabital 睡眠に顕著な影響を与えなかった. (3) 家兎坐骨神経刺激による腓腹筋誘発電位および攣縮に対しては, 顕著な影響を惹起しなかった. また蛙骨格筋の Acetylcholine による収縮反応を, THA は亢進した. (4) THA 投与後, 家兎血圧の一過性下降と軽度の呼吸興奮が認められた. また犬小腸の電気活性と運動の亢進が惹起された.
- 社団法人日本獣医学会の論文
- 1971-12-25