都市内農地保全に関する基礎的研究 (その 4)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
以上述べた様に, 新制度下では相続税が大幅に軽減され, 農家は相続税納入の為の農地売却を免れただけでなく, 農業経営者の相続における立場が強化され, 大幅な農地分割は避けうる事となり, 相続を契機とする農業破壊は回避しうる事となった。この事は今後, 後継者が育つ条件がわずかながらも改善された事をも意味し, 農業継続型農家にとっては, 極めて有利な制度ができたといえよう。しかしながら問題点も多い。次に農地保全との関連で問題点を整理する事とする。(1)適用農地は20年間, 農業の用に供される事を前提とする。しかし市街化区域では1)適用農地のうち市街化ランクIの農地が相当量あり, 今後周辺の市街化進展により, 一層生産条件が悪化する。2)また宅地並課税が実施された場合, 経営採算は大幅に悪化し, ごく一部の集約経営しか成立しえなくなる。いずれにしても20年間の農業継続には多大な困難が予想される。他方適用農地の20%以上の転用に対しては, 6.6%の利子税を追徴される事となり, 制度適用を受けなかった場合以上の税金を納入するハメとなり, 農地売却は必然化するだけでなく, 地価停滞が将来的にも予想されるところから, 売却面積は大型化し, 却ってスプロールをもたらすことにもなりかねない。(2)適用農地の範囲を相続人の自由意思に任せた事は, 長短2様の結果をもたらす事となった。まず短所としては1)脱農型農家の相続税のがれの為の制度利用を生みだしている。これは税の公平性を失するだけでなく, 市街地の真中に農地を残存させる事ともなり, 市街化の整序化といった点でも新たな問題を作り出している。2)しかし農業継続型農家にとっては, 周辺市街化により生産条件の悪化した農地を当初から非適用農地とする事で将来の事態に備えうるわけであり, 農業生産といった点からだけでなく, 市街化整序化といった点からも, うまく機能しているといえよう。この点に関しては, 制度運営面での改善が必要である。(3)耕作権がよく尊重されている為に, 小作地が適用農地とされるケースが多く, 小作地の適用率は市街化区域で71%, 調整区域で89%にも達している。特に小規模層が小作地を適用農地としているケースが多く, 中には自由処分が可能な自家保有農地を適用から除外し, 小作地のみを適用農地としている例もみられ, 先に報告したように, 市街地に囲まれた農地を残存させる事となり, 小作地が土地利用の歪をもたらす事にもなりかねない。(4)昭和40年代に多量の若年人口の吸収をみた衛星都市は現在義務教育施設を中心とする公共施設整備に迫られているが, 無秩序な市街化進展の為, まとまりある更地は殆んどなく, 集団化した適用農地群が公共用地と化する事が容易に想像される。適用農地の公共用地化は市街化整序化という点においても, また農家側にとっては, 公的機関への売却農地は追徴金対象から除外されるという点からも問題は少ない。ただ公共事業が農家の個別事情を全くといってよい程, 考慮に入れず, 半強制的且全面的な農地買収方式をとる為, 一部農家に大幅な農地縮小をもたらし, 農業継続を困難にせしめる事となる訳であり, この点についての十全なる考慮が必要である。(5)市街化区域内大規模農家の場合, 農地分割が生じるケースが多く, それら分割農地は適用農地とされない為に相続税額は多額となり, その納入の為に農地売却せざるを得なくなるケースが一部にみられ, 都市内農業の担い手, 新制度本来の対象であるこの層が農業継続困難をきたす事にもなりかねない。これは農家の手持動産の少なさ, 農地の資産視によって生じていると考えられ, 前者については資産分割防止に必要な資金貸付け制度の拡充, 後者については新制度制定主旨の徹底化, さらには相続税軽減の恩恵による農地観の変化に期待したい。(6)最後に, 新制度は市街化区域内農家にとってよりメリットのあるものである。逆に調整区域内農家にとっては調整区域に存する事のメリットが一層減少する事を意味する事となり, 農業基幹労働力の農外流出, リタイヤーにより専業的農家が減少し, いわゆる土地持ち労働者型農家が大幅に増加している時点においては, 市街化区域内編入の声がより一層高まる事が予想される。こういった事態に対処する意味からも, 新制度制定の主旨を生かし, 制度不正利用の排除等, 制度の厳格な運営が必要である。
- 社団法人日本建築学会の論文
- 1978-10-30
著者
関連論文
- 京阪内壁ベルトにおける工業立地の傾向について : 都市計画
- 5-11 門真市における都市化に関する一考察(都市計画)
- 高層高密度居住による生活態度変容に関する研究(2)(設計計画,住宅問題)
- 高層高密度居住による生活態度変容に関する研究(1)(設計計画,住宅問題)
- 土地条件解析について
- 618 行政需要把握についての一考察 : 大阪府豊中市におけるケース・スタディ(都市計画)
- 広場とコミュニケーション : コミュニケーションの場の変遷とその現代的再編
- 7001 千里N.T.近隣センター整備とコミュニティ住宅の供給(都市計画)
- 「共有地の悲劇」事態への工学的対応(広瀬報告に対する討論)
- 7002 大都市圏における人口移動の構造とその変遷に関する研究 : その2 流出パターンと住居・職業(大阪市を例として)(都市計画)
- 7001 大都市圏における人口移動の構造とその変遷に関する研究 : その1. 市・区・地区レベルでの人口移動(大阪市を例として)(都市計画)
- 既成工業都市における土地利用変容過程に関する研究(その2)工場跡地の再利用形態と周辺地区の土地利用変化形態
- 既成工業都市における土地利用変容過程に関する研究(その1)工場跡地の発生・再利用形態
- 7004 既成工業都市における土地利用変容過程に関する研究 : その2 工場跡地の再利用形態と周辺地区の土地利用変化形態(都市計画)
- 7003 既成工業都市における土地利用変容過程に関する研究 : その1 工場跡地の発生・再利用形態(都市計画)
- 621 大都市近郊農業地域の研究 : 大阪府和泉市南部地区における農村工業化の実態(都市計画)
- 住宅団地周辺の施設発生形式について(都市計画,防災)
- 大都市近郊農業地域の研究その5 : 大阪府南部地域のcase study
- 10)大都市近郊農業地域の研究 その4 : 京都府木津川右岸地域のcase study(都市計画・建築経済・住宅問題(第4室))
- 都市近郊農業地域の地区分類指標について : 都市計画
- 3)大都市近郊農業地域の研究 その3(都市計画・建築経済・住宅問題〔第4室〕)
- 1)大都市近郊農業地域の研究 その1(都市計画・建築経済・住宅問題〔第4室〕)
- 新設工場の原材料仕入及び製品出荷について : 都市計画
- 17)地方都市における脱農化について : 西脇市におけるcase study(設計々画・都市計画・住宅問題(第2室))
- 都市内農地保全に関する基礎的研究 (その 2)
- 都市内農地保全に関する基礎的研究その 5
- 都市内農地保全に関する基礎的研究 (その 4)
- 都市内農地保全に関する基礎的研究 (その 3)
- 都市内農地保全に関する基礎的研究 (その 1)