タイ国産キク科植物の分類学的研究3
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概要
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ショウジョウハグマ族Tribe Vernonieae はキク科植物で、頭花が両性の筒状花のみから成り、花柱分枝が先端へしだいに細くなり、葯胞の下部付属体が短かく矢じり状となるなどの特徴によって、他の族から区別される。約70属からなるが、大部分の属が熱帯域に生育するため、日本ではなじみの少ないものである。琉球、小笠原、九州南部でショウジョウハグマ属Vernoniaとミスミグサ属Elephantopusのそれぞれ1,2種がこの仲間のものとして見られるにすぎない。熱帯域に位置するタイ国にはこれらの属の他に、Camchaya, Ethulia, Struchiumの3属がある。属の数でいえば、タイ国は日本の2.5倍の属を有するにすぎない。しかし、ショウジョウハグマ属を取り上げると、日本ではムラサキムカシヨモギV. cinerea1種を見るにすぎないのに対し、タイ国には28種も記録されている。しかもこれまでのタイ国における野外調査で得られた資料標本の研究によって、この数はさらに増えそうである。この属の多くは広く東南アジアや中国西南部、さらにはヒマラヤに分布しているので、個々の種の実態を把握するためには近隣地域のものとの対比研究が必要である。しばしば種子植物の種属誌的研究は一通り終わったと云われるが、これは温〜寒帯域に生育するものに関してであって、熱帯産のものについてはやっと手がつけられ始めたというのが実情である。この論文でもCamchayaについて、2新種と2新変種が記載されている。Camchayaはショウジョウハグマ属に近縁で、カンボジア産のC. kampotensisをタイプとして記載された東南アジアの特産属である。冠毛は剛毛状で、1小花あたりせいぜい9本までと少なく、しかも容易に脱落する。また、すべて1年草で、平地の耕作地周辺や山地の路傍に生育する。一方、ショウジョウハグマ属は全世界の熱帯に広く分布する。冠毛は剛毛状で、小花あたり20本以上と多い。また、冠毛が容易に脱落するものもある一方で、短かい剛毛状や鱗片状のものを外側につけて2列性となるものも多い。一年草から樹高が10mを越える本格的な高木まであり、石灰岩地や落葉樹の林床などにも生育する。予備的に調査したタイ国産のショウジョウハグマ属10種余りの染色体数はいずれも2n=18, 36, 54とx=9の倍数であった。これに対し、Camchayaの各種はいずれも2n=20である。この染色体数の差に冠する評価は1000種を越えるとされるショウジョウハグマ属を検討する中で考えて行く必要がある。今得られる情報によると、アフリカ産のショウジョウハグマ属の1節Sect. Stengeliaはn=10の染色体数を持つが、2列性の冠毛を有するとされている。このことから染色体数20を有することと、冠毛を減少させたことに直接の関連はないといえる。ここで新しく記載したCamcnaya pentagonaは5稜形のそう果を持つことで特徴づけられる。これまでCamchayaのそう果は10稜形とされていたが、本種の存在で10稜形と5稜形であることになった。もう1つの新種C. spinuliferaの総苞片は多数からなり、いずれもきわめて細い披針形で、その縁にするどい刺を散生している。この総苞の特徴はC. montanaとよく一致するが、新種は次の点でC. montanaと異なる。すなわち、小花の長さは10mmで、C. montanaの3.5mmに比して倍以上である。また、頭花当りの小花数も約130個で、C. montanaの12から30個に比べて極端に多い。この子花の大きさと数による2型はその間に中間型があって連続するようには考えにくい。C. montanaのタイプ標本を検討していないので問題は残るが、これらの特徴で新種をC. montanaから区別し得ると判断した。ミスミグサ属Elephantopusについては植物研究雑誌57: 50 (1982)で解説している。Ethuliaは10種余りからなる属であるとする意見がある一方で、旧世界の単型属とする意見がある。私は未だ野外で本種に出逢っていない。過去に採集された場所から判断して、特殊な生育地に隔離されているようには考えにくい。一年草で、生える場所や季節によって姿を大きく変える性質があるのかもしれない。この論文では単型属とする意見に従った。Struchiumは単型属である。旧世界の熱帯に広く分布するが、熱帯アメリカ原産と云われている。私の採集した場所は耕作地横の小さな溝の中であった。ここに引用した他の標本も地名から判断すると、人手の加えられたところのようである。最近出版されたFlora Ceylonには比較的最近帰化したもので、最初の採集は1931年に行なわれたと記録されている。
- 1984-05-29
著者
-
小山 博滋
Department of Botany (KYO), Faculty of Science, Kyoto University
-
小山 博滋
Department Of Botany National Science Museum Tokyo
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