レオエンツェファログラフィーによる振動病患者の脳循環の研究
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概要
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高知県下の山林労働者など,振動病と診断された患者107名および対照群として,同地域の山林で働くが振動の影響をほとんど無視できると思われる26名について,レオエンツェファログラフィーにより脳循環の状態を調べた. 患者はガラニナの症度分類により4型に分け,また,年齢別にも区分し,それぞれの成績を対照群と比較した. 脳循環の測定部位は,前頭部,後頭部および脳底部である.測定は安静時およびニトログリセリン(NG)0.3mg経口投与後の2回行った. 結果は次のとおりである.まず,各指標の年齢との回帰をみると,UTとURに,幾つかの部位,とくに脳底部において正の回帰があった.しかし,NG投与後は回帰は消失した.各指標の平均値について患者群を対照群と比較すると,40歳台以上,とくに50歳台ではUTとURはより大きく,MVは小さかった.全年齢を通してみると,どの測定部位でもUTとURは大きかった.また,MVは前頭部と後頭部でより小さく,DIはより大きかった.著しい変化は後頭部における各指標にみられた.しかし,NG投与後,有意な変化は脳底部のMVにしばしば認められた. 各症度別に対照群と比較すると,どの部位においてもUTとURはより大きく,MVは小さく,DIは大きい場合があった.NG投与後,とくに症度IVのDI,UTおよびMVに有意な変化を認めた.また,症度回帰がみられたのはURのみであった. NG投与後のMVの増加率をみると,患者群でも対照群でも,どの年齢でみても,脳底部が前頭部より大きかった.脳底部のMV増加率の比較では,全年齢を通してみると,患者群は159.5%,対照群192.3%でその差は有意であった.MV増加率の症度別の比較では,どの測定部位でも,有意な変化はなかった.しかし,症度IIとIVでは対照群より小さかった. レオグラム波形の解析では,異常波と認められたのは,患者群の前頭部91.1%,後頭部84.4%,脳底部80.6%であった.また,対照群では,それぞれ73.3%,53.9%,53.9%で,有意差があった.異常波が最高頻度に認められたのは症度IVの後頭部であった.NG投与後,対照の脳底部では異常波はO%であったが,患者群では6.8%に残存した. 患者は頭部症状として,頭痛,頭重感,しびれ感,めまいおよび耳鳴などを訴えるが,頭痛,頭重,しびれ感などは,大半の者(50.5%)は後頭部にあった. 以上の結果より,次の結論が得られた.すなわち,振動病患者の脳血管は,機能的収縮状態にあり,このためNGには比較的良好に反応し,拡張波を示す.しかし,とくに脳底部においては,異常波のままで残る率も対照に比して高かった. 振動病が最も重い症度IVでは,脳底部血管の器質的変化が推察された.
- 1983-07-20