脂肪族アミンの培養線維芽細胞に対する構造毒性相関 : マイクロタイター法による検討
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概要
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脂肪族アミンは化学工業などで頻用されているが,とくに近年,エポキシ樹脂硬化剤としてその使用量がふえるとともに,作業者の皮膚障障などの人体影響も問題になってきている.この脂肪族アミンを始め,今日増加をつづけ膨大な量と種類に達した化学物質が,人間の健康に及ぼす影響を早期に知ることは,今日の産業衛生の緊要の課題である.そのため毒性に対する知見の整理と,より迅速簡便な検査方法の開発が望まれている. 1960年代Hanschと藤田によって提唱され,ドラッグデザインの領域でめざましい発展をとげている構造活性相関の考え方は,生物学的反応(B.R.)を分配系数などの化学物質の物性のパラメーターで量的に表現しようというもので,化学物質の毒性の評価にも有用であることは明らかである.しかし実験の化学物質への適用にあたっては,生物学的反応(LD_<50>など)の指標と化学物質側のパラメーター(とくに分配係数)のどちらも,それを求めるのは簡単ではない. われわれはまず,Hanschらの式の左辺にあたる毒性の指標を迅速に得るために,培養細胞を用い,マイクロタイター法で脂肪族アミンの細胞毒性を検査した.本方法は血清学的診断で頻用されるマイクロテストプレートの各wellに細胞を播種し,トランスファープレート上で倍数希釈系列を作った化学物質を加えて,細胞の生着・増殖におよぼす化学物質の影響を見る方法である.細胞はヒト由来線維芽細胞のIMR-90を用い,脂肪族アミンはモノアミン,ジアミンそしてエチレンアミンの3グループに分けて検討した.結果の判定は,72時間の培養後プレート底面に単層で増殖した線維芽細胞の量をギムザ染色により観察して最小細胞増殖阻止濃度(MIC)を求めた. MICをアミンのグループごとにアミン分子中のアルキル鎖の炭素数(n)に従って配列すると,一定の関係が認められた.電子計算機を用い重回帰分析を行なうとモノアミンは,log(1/MIC)=-0.016n^2+0.435n-2.185.ジアミンでは,log(1/MIC)=0.018n^2-0.074n-0.531と,互いに向きの異なる2次曲線が得られ,回帰係数はそれぞれr=0.960とr=0.979であった. 次にHanschらの式の右辺すなわち,化学物質のパラメーターとしての分配係数を迅速に求めるために,水-オクタノールを用いたFlask-shaking法でなく,クロマトグラフィー法を用いた.すなわち,高性能薄層クロマトグラフィー(HPTLC)を用い,先の実験に使用したアミンのR_Fを求めて,疎水性パラメーターのR_M(=log(1/R_F-1))を各アミンについて算出した.HPTLCを用いることにより,物質側パラメーターの算出は極めて容易,かつ迅速にすることができた.そうして得られたR_Mはモノアミンとジアミンではnと高い相関を示し,MICに対してそれぞれ次のような回帰式を得た.モノアミン: log(1/MIC)=-19.900R_M^2-3.481R_M+1.117,(r=0.969).ジアミン: log(1/MIC)=-1.304R_M^2+2.594R_M-0.823,(r=0.984). 一方エチレンアミンにおいては,R_Mはnの変化に対して,変化が乏しくほぼ一定であったが,MICも同様にほぼ一定であった.これらの結果から,R_Mを用いて化学物質の毒性の予測をすることの可能性が示唆された. 以上,脂肪族アミンを材料とし,マイクロタイター法とHPTLCを用いて構造毒性相関の検討を行なったところ,非常に迅速・簡便に良い相関を得ることができ,R_Mを用いた毒性予測の可能性も示唆された.今後とくに,スクリーニングテストの手段として,他の化学物質での応用が望まれる.
- 社団法人日本産業衛生学会の論文
- 1981-09-20
著者
-
小泉 明
東京大学医学部公衆衛生学教室
-
矢野 栄二
東京大学医学部公衆衛生学教室
-
矢野 栄二
東大医公衛
-
吉岡 正則
東京大学薬学部薬品分析化学教室
-
矢野 栄二
帝京大医公衛
-
吉岡 正則
東京大学薬学部
-
矢野 栄二
東京大学医学部公衆衛生
-
小泉 明
東京大学医学部公衆偉生学教室
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