バナジウムの新規な生物学的作用
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概要
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バナジウムは自然界に広く分布し,ヒトは毎日食物として10-60μgのバナジウムを自然な形で摂取し,体内には常に少量存在する.今のところヒトでの明確な必須性は不明であるが,酵素に対する直接作用は,1970年代後半にSigmaのATP製品中に混在するNa^+,K^+-ATPase阻害物質として偶然に見出され,これが引き金となって,バナジウムによる多くの酵素の活性調節に関する研究がなされた.その中で最もよく知られているのは,ラット脂肪組織や細胞に対するインスリン類似作用である.Orthovanadate(バナデート)は,糖の取り込み促進,glycogen synthaseの活性化,antilipolysis,cAMP phosphodiesterase(PDE)の活性化などを示すが,ある条件下ではadenylyl cyclaseを活性化するなどアドレナリン様作用も示し,その生理・生物作用は多岐に渡る.その上,バナジウムの化学は,生理的条件下でその酸化状態を容易に変えるため,かなり複雑である.V5^+酸化状態では陰イオン型,VO_3-(メタバナデート)やVO_4^<3->(バナデート)として,一方,V^<4+>酸化状態では陽イオン型,VO^<2+>(バナジル)として存在する.バナジルは,pH7.4の緩衝液中1時間でその50%がバナデートへ酸化されるなど極めて不安定であり,実験結果の混乱を招く一因となっている.Heyligerらは,ストレプトゾトシン実験糖尿病ラットにバナデートを飲料水に混ぜて6週間投与したところ,高血糖値は正常化し,糖尿病特有の心臓機能異常も改善するという驚くべき結果を報告した.この作用は,血中インスリン濃度とは無関係であり,バナデート独自のインスリン類似作用がにわかに脚光を浴びた.その後,比較的毒性の低いバナジルの安定型である錯体化合物が合成され,ストレプトゾトシン実験糖尿病ラットに経口投与や腹腔内投与のいずれによっても高血糖値が正常状態に低下することが確認された.ヒトへの臨床的応用として,2型糖尿病患者に6週間に渡ってバナジルを投与して認められる血糖低下作用は,肝や筋肉でのインスリン感受性の亢進に基づくものである可能性が示唆されている.しかしながら,標的細胞での受容体チロシンキナーゼを介するリン酸化カスケードの活性化やcAMPレベルの調節機構などの詳細は不明である.本文では,バナデートが脂肪組織中のlipoprotein lipase(LPL)の活性増加と細胞外への分泌を促進すること,さらに脂肪細胞から分泌されるタンパク質性ホルモンの1種であるレプチンに対してはインスリンと全く逆の負の調節を行うこと,また細胞内cAMP量を調節するPDEはインスリンと異なるリン酸化カスケードによって活性調節を受けることなどについてその機構解析の結果を紹介する.
- 2003-08-01
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