痛み情報伝達経路 : 末梢から大脳皮質まで
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概要
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痛みにはつねつたときのように瞬時に消える急性の痛みから,炎症や切り傷のように数時間から数日遷延する亜急性の痛み,末梢神経や中枢神経内の損傷などによる一生持続する神経因性の痛み,又は慢性炎症などによる年余に及ぶ痛みなどさまざまな痛みがある.これらの痛みを和らげ,除去することは医療における永遠のテーマである.痛みの研究の歴史は非常に長く,数多くの業績が積み重ねられてきたが,痛みの病態生理的解明,理想的な除痛法の完成には到っていない.中枢神経内における痛み上行路の最終点に関して,最近のPositron Emission Tomogram(PET)による局所脳血流イメージ検索は,ヒトにおける痛みに関連する大脳皮質が第1次体性感覚野(SI),第2次体性感覚野(SII),前帯状回皮質(24野)であることを明らかにした.かつてはヒトの幻肢痛,視床痛に対する大脳後中心回(Sl)切除による経験から,痛み認知の中枢は視床レベルと考えられており,その根拠としてSI皮質切除では除痛効果が得られないこと,SI皮質の術中電気刺激で位置感覚や異常感覚は再現できるが,痛み感覚の再現は見られなかったことなどより,痛み認知に大脳関与はないという考えが支配的であった.しかしPETにより,末梢における痛み刺激の結果としてSI,SII,24野など大脳皮質の活性化が見出されたことは画期的な神経科学的発見である.したがって,痛み(痛覚,侵害情報)伝導路はこれら大脳領野への経路解明ということになるが,上行路の各中継点。シナプスにおいてはそれぞれ侵害情報の制御が行われ,その解明は鎮痛のための治療的介入手段開発のためなお重要である.大脳皮質に入力された痛み信号もその層間で,また,他の皮質野との間で連合線維による痛み信号の制御が行われ,痛みの感覚・識別的な面(sensory-discriminative aspect)がSI,SII皮質で,情動・認知的な面(emotional-cognitive aspect)が前帯状回24野で最終的に認知されることが明らかになった.ただ,ヒトにおける非侵襲的検査であるPET検索では脊髄,脳幹,視床,大脳皮質下など侵害情報上行路の血流の変化が空間識別能の限界から検出されず,今後のPETの精度向上に待たねばならない.これらにおける上行路解明は従来の神経解剖学的,神経生理学的,神経薬理学的検索が現在でもなお必須である,ここでは末梢の侵害情報の受容から,中枢神経系への伝達,いわゆる痛み(侵害情報)の上行路について,及び最近見出されたプロテアーゼ受容体(protease-activated receptor;PAR)の痛みに関する私どもの研究も交えて概説したい.
- 社団法人日本薬学会の論文
- 2003-07-01
著者
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